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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年1月12日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力8」②
婚約者の友人(上)(2017年 恋愛映画)

監督 フランソワーズ・オゾン

出演 パウラ・ベーア/ピエール・ニネ

シネマ365日 No.2722

婚約者を殺した青年 

 第一次世界大戦で戦士したフランツ(原題)の友人、フランス人アドリアン(ピエール・ニネ)が、フランツの墓に詣でる。それをフランツの婚約者だったアンナ(パウラ・ベーア)が見た。彼はフランツの両親(父は医師)の家を訪問した。敵国人に対して父の態度は頑なだったが、母とアンナは歓待し、生前のフランツの様子を聞きたがる。久しぶりに、フランソワ・オゾンらしい作品です。ドイツとフランスの敵対関係、アドリアンに心惹かれるアンナ。誠実で思いやり深い両親の理解。書くべきことはたくさんあるのですが、オゾン監督はある時は淡彩色のカラー、それ以外はモノクロで、巧みに登場人物たちの心の彩りを示します。映画の前半はアドリアンの嘘、後半はアドリアンに思いを寄せてフランスに渡ったアンナの喪失を描きます▼爆撃のさなか、塹壕で鉢合わせした独仏の兵士。アドリアンはフランツを射殺する。フランツが持っていたアンナの手紙を読み、良心の呵責に耐えられず、終戦後ドイツに墓参りをする。アンナと母親の心のこもった応対に、本当のことをいいそびれてしまったアドリアンは「僕たちは仲が良かった、最後にあったのはパリです。一緒にルーブルに行きました。彼の好きな絵は青ざめた顔の若者が仰向けになっているマネの絵です。一緒にヴァイオリンを弾きました」母と婚約者は、食い入るようにアドリアンを見つめ、在りし日の恋人と息子に思いを馳せた。頑固な父も息子のヴァイオリンをもらってくれと頼んだ▼みなアドリアンの作り話だ。ところがこの架空の「現実」を撮るオゾンの腕の冴えときたら、まあ、美術館を楽しそうに歩く青年ふたりの美しいこと。ヴァイオリンを弾く細く長い指。背後からアドリアンが、ちょいちょいとフランツの指の位置を直してやる。オゾン得意の「ふたりの関係」になるのか。でも違うの、これはみ〜んな、アドリアンのウソッパチだったの。アドリアンは自分を信じ切っている、フランツの家族を騙していることに耐えられず、アンナに告白する。いい人だと思っていたらフランツを殺した人なのだ、とアンナは驚き憤り、泣く。両親に真実を告げるのはあまりにも残酷だった。事実を「父上と母上に手紙で伝えたい」というアドリアンに、手紙は「私宛に」と約束させ、彼の帰仏を見送る。直後、アンナは自殺しようと入水します。彼女は泳げないから、本気で死ぬつもりでした。アドリアンがフランツを殺していた、それもショックだったけれど、アドリアンを恋し始めていたアンナは、精神的に八方ふさがりに追い込まれたのですね。アドリアンへのほのかな恋心は、婚約者を失った悲しさから、立ち直るきっかけになろうとしていたのに。母親はアンナの微妙な変化に気付いていた。アドリアンはいい青年だから、もし再婚するならしたほうがよいと思っていた。アンナはアドリアンの真実を隠したまま、善良な両親が「彼に会いたいわ」「ヴァイオリンを弾いてほしいよ」などと話すのを聞くのが辛かった。本当のことを言うべきか、神父に相談すると「知ったところで誰も幸せにならない。言わなくていい」。よくわかった神父だわ。