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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年1月14日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力8」④
ゆれる人魚(2018年 ファンタジー映画)

監督 アグニェシュカ・スモチンスカ

出演 マルタ・マズレク/ミハリナ・オルシャンスカ

シネマ365日 No.2724

セクシャル・デーモン

 ポーランドの映画です。オープニングの動画はアレクサンドラ・ヴァリシェフスカの絵で、監督自身彼女の絵からインスピレーションを受けて本作を作ったというから、重要なモティーフです。怪奇とユーモアの入り混じる彼女の絵は、顔の中の顔、異星の荒野に戯れる奇怪な生命体など、見るものに恐怖と嫌悪をあおる絵でありながら、グロテスクな豊饒を見出させる。アンドリュー・ワイエスとか、セザンヌやゴッホとか、名前を出すのになんのはばかりもないアーティストと違い、彼女が好きですというと、一歩後ずさりされてしまいそうな、一時のグスタフ・クリムトやエゴン・シーレが創り出した時代の変異を象徴する画家です▼絵から先に入りましたが、映画もほとんどそれに言いつくされる。ばっさりと本作をまとめると、1980年代のワルシャワのナイトクラブに現れた、人間に恋した姉人魚シルバー(マルタ・マズレク)と、妹人魚ゴールデン(ミハリナ・オルシャンスカ)の物語。姉妹はナイトクラブで歌を歌い、ストリップをやり、人間から人魚に変身するメタモルフォーゼスまでステージで見せるものだからたちまち人気者になる。1980年代、共産主義時代のワルシャワで市民は娯楽に飢え、ナイトクラブの前は入場を待つ行列ができた。けばけばしいネオンがあおる頽廃と混乱が、そのまま姉妹のキャラとなります。姉がバンドのベース奏者ミーテクに恋した。悪魔が登場します。角を切り取った後がボコボコのコブみたいになっている。彼が存外話の通じやすい男で妹に注意する。「姉から目を離すなよ。お前たちは素晴らしい声の持ち主だ。恋した男が別の女と結婚したら姉は声を奪われ夜明け前に海の泡となる」。彼女らは肉食魚で、妹は街に出て男を食い殺す。食いつくときは、歯がジョーズのように変形します。ミーテクは姉に「悪いけど君は僕にとって魚だ。したくてもできない」。姉は尻尾を切って人間になると決心する。彼女らの尻尾が異様に太く長く、うねうねとくねらすさまは、女体と蛇の特異な組み合わせを思わせます▼切除する外科手術が、大胆というか怖いというか、のこぎりでギリギリ腰を切断し、ブスブスと縫い合わせる。神経はつながるのか? 人間の知ったことじゃないとばかり別人の女性の下半身を縫い付け一丁上がり。いざセックスに及ぶと、ミーテクは血が流れる姉の傷口に恐れをなし、たまたま知り合った女性と結婚する。姉はそれでもお祝いを言うため結婚式に参列する。パーティに悪魔が現れ「男を食え。でないと泡になるのだぞ」。妹も気が気ではない。夜明けが近い。姉は男とダンスを踊り、首筋に歯を立てる寸前引っ込める。日は昇りミーテクが抱いているのは泡だけになった。妹は逆上し男の喉に牙を一閃。男は血の海で死ぬ。姉も納得のうえ、恋人の生存イコール自分の死を選んだのだから、食い殺されたミーテクは災難なのですが、妹にすれば容赦できない。彼女らは濃い愛情の、一心同体の人魚です。妹は海へ戻る。続編が構想中らしく、監督は妹の復讐編にしたいと言っています。本作で鮮烈だったのはやはり尻尾。ぬらぬら、ヌメヌメ、巨大にして圧巻、バスからズルッと半身をのぞかせた姿は妖艶そのもの。ド迫力の尻尾に徹したほうが、ハイブリッドとしては人間社会で生きていけないクリーチャーの悲しみ、怒りが凝縮したに違いない。次はどうなる。ヴァリシェフスカの絵には楳図かずおのシュールと似通ったものがありますが、中枢にあるのはセクシャル・デーモンであり、残酷で冷血な孤独です。こっちの方向に行くのではと勝手に思っています。せっかくいい素材をつかんだのだから、退屈な恋愛でつじつまを合わせるのだけはやめてほしいわ。