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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年1月15日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力8」⑤
シドニー・ホールの失踪(上)(2017年 劇場未公開)

監督 ショーン・クリステンセン

出演 ローガン・ラーマン/エル・ファニング/カイン・テャンドラー

シネマ365日 No.2725

行方を消した天才作家 

美しい虚無=妄想映画の魅力8

 10代でベストセラーを2冊、ピューリッツア賞候補にもなったシドニー・ホール(ローガン・ラーマン)が行方を絶った。離婚話がこじれていたらしい、スランプだ、女性問題だと憶測はあったがどれも決定的な理由にはならない。シドニーとピューリッツア賞を争った作家、ビショップ(カイン・テャンドラー)はシドニーという作家に興味を持ち、1ドルショップで買った警官バッジを都合よく使って追跡半年、ようやくシドニーに会う。警察に収監されていた彼の保釈金を払って身元を引き受けたのだ。本作は回想シーンが頻繁に入るためなかなか全体像が掴みにくい恨みがありますが、手短に行ってしまうと、シドニー・ホールという、風に吹かれて7年間放浪した青年の、その恐ろしく繊細な感性ゆえ、世間に馴染めず、と言って愛を信頼していないわけでもない。高校生のとき一目惚れした向かいの家のメロディ(エル・ファニング)と、幸せな結婚しながらも浮気がばれて離婚を切り出され、妻のお腹には子供がいるとわかり、再出発を誓い、妻も許し、さあこれからという時に、妻は喘息の発作。故障のため止まってしまったエレベーターの中で死ぬ。シドニーはすべてが虚しくなり身一つで家を出て音信を絶った、トいう前提があります▼シドニーの行方がさっぱりスクリーンで明らかにされないばかりか、行動が謎めいているので、何が言いたいのだろうと途中で嫌になりかけますが、スピーディなシーンの切り替えと、登場人物が少ないわりにミステリアスなエピソードの連続で、最後まで関心をつないでいきます。この青年は自分の成功が「たまたま」であって、二作目は一昨目の余韻であり、これから何を書くかプランはありません。自分は世間がいうような天才作家ではなく、もう直ぐ書けなくなるという予感に苦しめられているようにも見えます。この青年にもう少し「受け狙い」のような俗っぽい性質があれば、彼をもてはやすマスコミや出版社や、女たちの間をうまく泳いで成熟したでしょうに。気立てのいい、内向的な青年だけに人にも人生にも受け身になってしまった結果が、彼を追い詰めたようで気の毒です▼メロディはシドニーが好きなのにアタックできない、でも気の強い少女。シドニーが道を横切って近づこうとすると「道を渡らないで」と厳しく制止する。でもある日シドニーは大きな厚紙に「僕は道を渡るぞ」と赤い字で書き、それを看板のように抱えて歩いてくる。メロディは窓からその光景を見て微笑みます。彼女は離婚する、しない、でシドニーと言い争うとき、この厚紙を持ち出してくる。10年になろうとしていましたが、彼女は結婚を決めたときの気持ちを忘れていなかった。「あなた、このときのように真摯になれる? 浮気しているなら言って。今言うのなら許す。妊娠しているの」。思うにシドニーとは書かせたら天才かもしれませんが、衝撃の耐震性がないというか、性格的に弱いところがあるようです。メロディが離婚を言い出したのも、手近な理由では、ピューリッツァー賞をビショップにさらわれた、それをしつこくグチグチ言ってばかりいるのにウンザリしたからです。もちろん女の影も感づいていましたけどね。