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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年1月16日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力8」⑥
シドニー・ホールの失踪(下)(2017年 劇場未公開)

監督 ショーン・クリステンセン

出演 ローガン・ラーマン/エル・ファニング/カイン・テャンドラー

シネマ365日 No.2726

5月25日 

美しい虚無=妄想映画の魅力8

 シドニーの同級生にブレット・ニューポートがいます。地元の裁判官の息子で、アメフトのスターです。彼とシドニーが子供の時に埋めた箱を堀り出したい、場所がよくわからなくなったから手伝ってくれと頼まれる。彼はクラスのチャンをイジメの対象にしている。チャンのイジメをやめるなら、と云う条件つきで手伝ってやる。箱は出てきた。ブレットはシドニーに箱を預けたまま、父親と家に帰った。シドニーは誘惑に負けて箱を開けます。ビデオテープが入っていて、内容は父親の息子・娘に対する性的虐待だった。その日は土曜の夜だったので、月曜になったら警察に届けよう、そうしたら君は父親から逃れられる、とシドニー。月曜になった。ブレットは欠席だった。日曜の夜にナイフで腹を刺し自殺したのだ。シドニーは自分が殺したように悔やむ。彼の第一作ミリオンセラー「郊外の悲劇」はブレットがモデルだった▼ビショップはレストランでシドニーの回顧を聞き、「君の伝記を書きたいと思っていたが」あまりに深い絶望になすすべもなく「ここで別れよう」。カイン・テャンドラーは「キャロル」の夫役でした。ケイト・ブランシェットに押されていた役の彼とは違い、落ち着いた滋味のある作家の、いい味を出しています。メロディとシドニーは恋人時代に約束したことがあった。「ここへ行きたいの」彼女が見せた写真は砂漠に忘れられたように建っている家だった。「素敵な家でしょう」「場所がわからない」「西へ、西へ行けばいいのよ。私たちが30歳になったら、その年の今日、5月25日よ。この家に行く。地面に横たわり朝を待つの」「その時別れていたら?」「別の家族を作っていてもいいの。この夜だけは私たちの夜にするの。砂漠の秘密よ」そんな会話を交わした。離婚するというメロディにシドニーは言った「あの家を買ったんだ」▼何もかも風に舞う砂漠の砂のように消えていく。シドニーは一人、無人の家にいって、友達の犬のホーマーと地面に寝て過ごした。ホーマーとは息子が生まれたらそう名付けるとメロディが決めていた名前です。やがて彼は衰弱と肝機能の失調で重体となり警察に保護され、入院先にビショップを呼ぶ。ビショップは懺悔を聞く司祭のようにシドニーの話を聞いた。「エレベーターの中でメロディが目を覚ましていうんだ。まだ逝かないわ、赤ちゃんを産むのよ…」シドニーは目を閉じ、二度と開かなかった。エンディングにこんな歌が流れる。「もし今夜が曲がった道でなければ、もし明日があんなに遠くでなければ、孤独なんて怖くないのに。銀色にきらめく川は美しい、空の虹も美しい、だが何より美しいのは記憶の中にある、愛する人の瞳だ」。俗に入って俗を出でる。感傷的でありながら感傷に堕さず、成長物語の息苦しさもなく、美しい虚無の中に消えていくシドニーによって、青春の追憶を呼び起こさせる典型的な青年像を造詣しています。世間の塵芥にまみれながら、傑作を書いて欲しかったですけどね。