女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年1月17日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力8」⑦
ベビー・ルーム(上)(2006年 劇場未公開)

監督 アレックス・デ・ラ・イグレシア

出演 ハビエル・グティエレス/レオノール・ワトリング

シネマ365日 No.2727

境界を超えてしまった男 

美しい虚無=妄想映画の魅力8

 生まれたばかりの子供と若い夫婦が一軒家に引っ越してきた。ファン(ハビエル・グティエレス)とソニア(レオノール・ワトリング)だ。子供部屋が別でも赤ん坊の様子がわかるようにモニターできる受信機を取り付けた。ある夜ファンは子供部屋から不審な音を聞き、次は黒い服の男がベビーベッドのそばにいるのを見た。通報するが誰も出入りした様子はない。モニターにも何も映っていなかった。ファンは新聞記者だ。編集長は面白いから記事にしろというが、ファンはそれどころではない。モニターに別の映像を見た。誰かがバスルームに裸の女を引きずっていくのだ。女は明らかに殺されていた。不動産屋に家の履歴を確かめると3年間に5回売却。異様なほど持ち主が変っている。夫の不安な状態を恐れたソニアは実家に戻った▼ファンは超心理学の専門家ドミンゴを訪ね「カメラがとらえることのできない、視覚外のイメージを見る」ことについて訊く。「その男は妻と子を手にかける殺人鬼です」「それは内在だ」とドミンゴ。「同じ空間で繰り返される情景だ。怒りなどの大きなエネルギーによって境界を超える」「何の境界です」「世界の、だよ」ドミンゴは「シュレシンガーの猫を知っているか。量子力学だよ。箱の中に猫が1匹いる。そしてガスの発生装置がある。1時間で発生の確率50%。1時間後の猫の状態は? 生きているか、死んでいるか、誰にもわからん。箱を開けた人間が現実を一方に決定する」「平行世界(パラレルワールド)は創られると?」「50年代にはそう信じられた。だが超心理学的に言うと、君の家では亀裂が生じている。男は妻と子を殺す。毎日同じ時間に永遠に繰り返す」「一方を消すことは?」「できん。変えることもできん。猫を救おうとすれば自分が箱の中に閉じ込められる」つまりもう一方の世界の妻と子を救おうとすれば、自分が箱の中に閉じ込められるということ▼ファンはモニターに映る子供部屋に入っていった。そこには模型の家があり、黒い服を着た男の、薄い紙人形が家の中においてあった。紙人形そっくりの男が入ってきてファンはクローゼットに隠れる。男はバスルームに行く。風呂に入っているのはソニアだ。笑いながら話しかけていたが、男はソニアの首の後ろから長い針のようなものを突き立て殺すのだ。男の顔はファンだった。ファンはドミンゴの元に駆け込む。「境界を超えたのだ。殺人鬼は俺だった。過去の話じゃなかった。平行世界で見たのは自分の未来だった」。ドミンゴは冷静に「見たのは可能性の一つだ。世界は無数に存在し、この世界もその一つだ。違う世界が何千と存在する。別世界では我々の関係性さえ危うい。よく聞け。二度と箱を開けるな。誰かが入れば誰かが出る。入り口を見つけたら鍵を捨て、すべて忘れろ」。ソニアがもう一度やり直そうと戻ってきた。ファンは落ち着きを取り戻し家族に平安が戻ったかに見えたが、夜、ファンは鏡の中の自分が、抱いたわが子の喉を掻き切る幻想を見る。「この家を出よう」と再びファンは妻に迫る。しかしファンの見えるものはソニアには見えないのだ。夫が異常をきたしたとしか思えない。「ソニア、奴は君を憎んでいる」「奴って誰? 誰もいないわ。あなただけよ」ソニアは夫を近づけまいとナイフを握り警察に緊急通報する。救急車に運び込まれた妻を夫は子供を抱いてやさしく見送る。妻はホッとするが、ナイフで傷ついていたはずの夫の手の甲に傷がない。「あなた、手の傷はどこなのよ」。ファンは黙って薄く笑う。「あれは別人よ!」ソニアは叫んだが…。