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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年1月19日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力8」⑨
マカロニ・ウェスタン/800発の銃弾(上)(2005年 西部劇映画)

監督 アレックス・デ・ラ・イグレシア

出演 サンチョ・グラシア/カルメン・マウラ

シネマ365日 No.2729

映画魂が炸裂する 

美しい虚無=妄想映画の魅力8

 アレックス・デ・ラ・イグレシア作品が続きます。この人の映画、クセになってしまうのよね。辟易する、しつこくて辟易する、ドタバタ乱痴気騒ぎを見せつける一方で、もはや初老となり、華やかだった全盛時代は遠い過去、うらぶれた哀感をにじませる男たちがやるせない。本作は西部劇に生きるスタントマンの話であり、映画の舞台裏にある人生を描いています。スペインでは1950〜60年代にかけて映画製作が盛んだった時期がありました。当時のアルメニアはマカロニ・ウェスタンが数多く作られハリウッドさながらの盛況を呈し、アメリカ人と働くスペインの役者たちは待遇も特別だったほどでした。彼らは西部劇という理想的な世界で生きていた。だがその世界は忽然と消えた。映画製作は西部劇から宇宙モノ、ファンタジー、「泣かせ」や特撮に移行していき、スタントマンたちは職を失った。スタントマンたちは観光客を相手にする西部劇のショーを始め、今までの映画でスタントした危険な見せ場を演じて日銭を稼ぐようになった▼フリアン(サンチョ・グラシア)はマカロニ・ウェスタンの第一線で生きてきた男です。スタントマンはスターの代わりになんでもこなす。「ギャラは安く、人に知られぬ仕事だが、名誉と誇りに満ち、スターとスタントマンの間には強い絆が生まれる。クリント・イーストウッドは国際的な大スターだが、俺を誰も知らない。だからスターは我々に敬意と友情を抱いてくれる」。フリアンはイーストウッドや、「パットン大戦車軍団」でジョージ・C・スコットの代役をしたことが一生の誇りなのです。彼にはトラウマがあった。息子は「俺より上手かった。一流だった」のに撮影中事故で死んだ。フリアンが酒を飲んで撮影に臨み、合図を出すのが遅かったからだ。息子は駅馬車の疾走シーンで馬の蹄の下になって死んだ。以来フリアンは酒浸り。妻は愛想を尽かし、息子の嫁ラウラ(カルメン・マウラ)は、義父のために夫は死んだとして、蛇蝎のごとくフリアンを嫌っている。ところがラウラの一人息子カルロスが祖父を慕って西部劇の映画村に家出した。ラウラは激怒する。彼女は不動産開発をビジネスとし、広大なテーマパークの建設を計画していた。ところが土地獲得が地上げ屋のため暗礁に乗り上げ動きが取れない。太陽の降り注ぐスペインの大自然に恵まれた一等地はないか。ラウラはひらめいた。マカロニ・ウェスタンの撮影のメッカ、伝説のアルメニアこそ、新天地創造にふさわしい。新企画の開発によって西部劇村は閉鎖と決まった。十分な一時金はもらえる。だがそんなことじゃない。俺たちはここで夢を生きてきた。老いさらばえた男たちの過去の栄光かもしれない。でもここが俺たちの人生だった。フリアンは西部劇ショーを、共に演じてきた男たちと共に立ち退きを拒否する。実弾を買い込んで武力行使に訴えた。かき集めた一時金で買えた銃弾800発。保安官、葬儀屋、首吊り役、バーテン、馬に引きずられる男、屋根から転げ落ちる役専門。彼らは言うのだ。「ここがなくなったらどうする。また工員に逆戻りか」。クレジットに一度すら、名前が出たこともない男たち。でもそれが誇りだった。テーマパークもヘチマもあるか。誰にもこの村を奪わせはせん…イグレシアの映画魂、炸裂!