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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年1月20日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力8」⑩
マカロニ・ウェスタン/800発の銃弾(下)(2005年 西部劇映画)

監督 アレックス・デ・ラ・イグレシア

出演 サンチョ・グラシア/カルメン・マウラ

シネマ365日 No.2730

クリントからの電話

美しい虚無=妄想映画の魅力8

 フリアンが観光客相手に西部劇博物館(と称する小屋)でこう説明するシーンがある。「ここはウェスタン村の目玉だ。『エル・シド』でチャールトン・ヘストンの乗った馬(剥製)と鞍。「『ドクトル・ジバゴ』でオマー・シャリフとジュリー・クリスティの乗ったソリ。『アラビアのロレンス』で使ったラクダの鞍。クリント・イーストウッドのポンチョ」…フリアンの全てだった。しかしスタントマンにとって配分金一人3000ユーロは見たこともない大金だった。撃たれ役の保安官はくだらない見世物ショーに出ている夫に引導を渡す。これ以上付き合っておれない、出て行く。3000ユーロあれば人生再出発できるかもしれない。そこへラウラが揺さぶりをかけた。「あなたたちのウェスタン村は消滅させない。新しいテーマパークでスウールアップして存続させる」。最後に残ったのはフリアンと葬儀屋役だ。彼は「おれは地味な役ばかりだった。最後に一度くらい華のある役をやりたい」▼警察隊が包囲し、特殊部隊が出動する。銃撃戦となった。報道ニュースを見て駆け付けたラウラと孫カルロスは立てこもり、パトカーを炎上させ、村の施設を崩壊するフリアンに呆然。保安官は過去の事故の真相をカルロスのいる前でぶちまける。「お前が酔っ払って息子を死なせた。刑務所に入って出てきて以来酒浸り。お前は廃人だ。負け犬だ。イーストウッドと友達だなんて嘘っぱちだ」葬儀屋が言い返した。「ナプキンを見せてやれ!」フリアンは財布から大事に折りたたんだ紙切れを出す。「イーストウッドが電話番号を書いてくれた。40年前だ。今から電話する」。電話はつながった。「スペインのフリアンです。クリントの友人です…そうですか」留守だった。フリアンの怒りの矛先は保安官に向けられた。「お前は友達を装って近づき、俺を裏切った。ここで決着をつけよう」そして言うのだ。「俺を撃て。友達の頼みが聞けないのか!」フリアンは死にたいのだ。彼という男を、嫌というほど知っている保安官は一発で心臓を撃ち抜く。倒れたフリアンの周りに人々が集まった。ポケットから落ちた彼のケータイが鳴った。発信者はクリント・イーストウッド▼葬儀の日。一人の男がやってきた。参列者に驚愕が走る。長身に黒いハット。クリント・イーストウッドと解釈してくれても差し支えない、そういう設定である。憎らしいほどにわざとらしいシチュエーションだ。こういうあざとさが親イグレシア・反イグレシアに分かれる所以だろう。しかし情と追憶の世界を貫く剛腕、独りよがりとスレスレの映画作りのブレのなさ。人生の敗残者と見なされた男に、監督が最後に見せてやった美しい虚無の花を、つべこべ言う気はしない。