女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ベストコレクション」

2019年2月11日

特集「春の星/如月のベストコレクション」① 
EVA(エヴァ)(2018年 恋愛映画)

監督 ブノワ・ジャコ

出演 イザベル・ユペール/ギャスパー・ウリエル

シネマ365日 No.2752

ギャスパー君、気の毒 

特集「春の星/如月のベストコレクション」

 ヒモ男が自滅する映画。イギリス人作家の愛人として部屋に出入りするベルトラン(ギャスパー・ウリエル)は、ある夜の訪問で作家が発作で死んでしまった。彼は部屋を漁り、書き上げた戯曲「合言葉」を盗んで逃げる。自作として発表した彼は一躍演劇界の寵児となり、美しい婚約者まで得た。作品は再演、再演。でも悲しいかな、あとが続かない。エージェントや出版社の矢の催促をはぐらかし、前受金だけいただく彼をフィアンセのカロリーヌに「そろそろ彼を庇うのはやめたらどうだ」と冷めた忠告をするエージェントもいる。でもカロリーヌはベルトランの再起を信じている。ベルトランは田舎の別荘で執筆するといって到着すると、雪で立ち往生した男女がいて、女は風呂に入っていた。追い出そうとしたベルトランは彼女と目が合い、恋に落ちる▼他人の家で勝手に風呂を使う図々しい女エヴァがイザベル・ユペール。彼女の枕詞には「ミステリアスな」がよく使われますが、本作のエヴァはミステリアスでもヘチマでもない。彼女の夫は画商だが目下ムショ入り。出所しても画商の免許剥奪で仕事はできないだろう。自分は生活費を稼ぐため娼婦をしている。愛するのは夫一人、もし彼が死んだら私も死ぬ、とはっきりベルトランに打ち明けていますからね。それを承知でベルトランは彼女をストーカーする。仕事ならいいだろうと彼女と寝るが、エヴァのビジネスライクは徹底していて「300ユーロでシャンパン付き。前金で」と手のひらを出す。自分にとって男は夫だけ、あんたは客よ、お金をもらって寝るだけ。立て込んでいる時に横入りしようとすると「600ユーロよ」と釣り上げる。男はもともと書く才能ゼロだから一行も進まない。カロリーヌの励ましが重荷になり、でも彼女は疑いもなく自分を愛している。苦し紛れに婚約する。カロリーヌは煮え切らないベルトランがやっとその気になってくれたと喜んで、両親の家に連れていく。父親の知的会話にベルトランはついていけない。美しい微笑を浮かべ好感度抜群の青年でやりすごす▼そのうちベルトランが書き始めた。これがまた絶句ものだ。エヴァの言ったことをそのまま文章にしているのだ。カロリーヌが読んで「会話が平凡だわ」。そらそうですね。現実の会話を文字に置き換えただけだからね。ベルトランには打つ手がない。逃げ道はエヴァを追いかけることだけ。エヴァは面倒臭くなるが、ベルトランに一抹の同情を感じる。悪女の深情け一歩手前です。とうとう旦那が出所した。それと知らずベルトランは彼女の家に。ぬっと背後から出てきた男に階段から突き落とされる。もう会いたくないと彼女のメールが入った。性懲りもなくベルトランは追回し、カフェで仲良くお茶を飲んでいるエヴァと彼女の女友だちと、夫の三人を見つける。ベルトランに気づいたエヴァは黙って首を横に振る。女友だちが気づき「だれ?」と訊く。「さあね」エヴァは軽く言って三人でカフェを出ていく。ベルトランに女がいると知ったカロリーヌは絶望、車を暴走させ事故死した。ベルトランに残るものは何もない。そういうお話▼のけぞるほど男に気の毒なストーリーをブノワ・ジャコ監督は精巧なタッチで追い詰めていきます。正倉院の螺鈿細工のようなお見事さ。まして主演がイザベルですから、破滅型の女を演じたら猫にマタタビね。本作はストーリーより映画作りのキメ細かさを愛でるべき。例えばベルトランが愛人の部屋を訪問し話し相手になる。かつてはブッカー賞をとった作家も今は過去の人。惨めな繰り言をベルトランは聞いてやり酒を勧められると「仕事中だから」と断る。愛人兼ヘルパー兼セラピー兼のような複雑なお仕事です。トイレにしゃがませ、服を脱がしバスタブに湯を張り、素っ裸の老人を湯に浸ける。「君も入れ」と言われた時はさすがに断る。こういう一コマ一コマを舐めるように映すのです。その割にベッドシーンはあっさり。木で鼻をくくったような女こそ彼女のキャラで、愛欲ベタベタはイザベルのガラではないことを監督はよく知っているからね。ギャスパー君、大姉御イザベルの相手役で健闘。