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特集「ベストコレクション」

2019年2月14日

特集「春の星/如月のベストコレクション」④ 
スガラムルディの魔女(下)(2014年 コメディ映画)

特集「春の星/如月のベストコレクション」

監督 アレックス・デ・ラ・イグレシア

出演 ウーゴ・シルバ/カルメン・マウラ/カロリーナ・バンク

シネマ365日 No.2755

幸せが息苦しくなる 

 グラシアナの演説はこうです。「男たちは神が女だという事実に耐えられない。もはや善も悪も、天国も地獄も、美徳も罪もない。真実はひとつ。偉大な全能の女神、冷酷な母と娘、我々こそ純粋な精神を持つ。彼らは我々から本能を奪い、罪悪感を植えつけ、我々の性を侮辱した。復讐の時が来た。“母の復活”とともに彼らに裁きが下される!」。ホセがエバにささやく。「君の母親が文明を滅ぼそうとしている」。そうはさせない。エバは「女神の弱点を知っている」とホセに教える。彼女は魔女を裏切ったのだ。弱点とは、女神の帽子を脱がせることだ。ホセは飲み込まれそうになりながら奮戦、女神の帽子を引っ剥がすと巨体はもろくも崩れ去った。ホセは息子を連れて脱出。息子は女神の胎内を通り抜け、性を超越した存在となった(らしい)▼一カ月後。セルジオは手品師となり、少女の胴を真っ二つに切る手品をステージで披露する。本当に切って離れた体を今は本当の魔法使いとなったセルジオが、魔術でくっつけるのだから手品とは言えないが、観客の中にはホセやエバがいて拍手している。劇場の後ろの座席に並んだ3人の黒い服とサングラスの女は、グラシアナとその母親と、ホセの元妻のシルビアだ。「めでたし、めでたし、ね。お金に車、家や犬も手に入れた。でも幸福がやがて彼らを追い詰める。少しずつ幸せが息苦しくなって、きっと戻ってくるわ」。ありそうな予感とともに、苦味の効いたエンドだ。オープニングに女性の肖像が数点映ります。マレーネ・ディトリッヒ、ボーヴォワール、メルケル独首相、サッチャー元英首相らが。「オール・アバウト・マイ・マザー」でペドロ・アルモドバル監督は「ベティ・デイビス、ジーナ・ローランズ、ロミー・シュナイダー」と名前を挙げ「すべての女優たち、女になった男、母になりたい人々、そして私の母に捧げる」と献辞を述べましたが、イグレシア監督の意図するところはどうか▼先に挙げた彼女らこそ現代の魔女、もしくは魔女の末裔という意味ではないかと思われます。女は本質的に魔女である、という抗いがたい思いがイグレシアにはあるに違いない。ホセが劇中言っています。「女房は魔女だ」。男の手に負えないものを何でも魔女にするかよ。しかし魔女だろうと一国の首相だろうと、大女優だろうと、女性史を塗り替えた哲学者だろうと、長い間の抑圧を生き延び、世界に発信できた勇敢な女性たちを、あえてイグレシアは魔女としたのかもしれません。彼はデウスト大学哲学科出身。「幸福がやがて彼らを追い詰める。幸せが息苦しくなる」という冷徹なセリフに、彼の哲学の尻尾がついているように思えます。思えば幸福の中の不幸、豊かさの中の乏しさ、光の中の闇が、いくつの家庭を、何人の恋人たちを破滅させてきたでしょう。エバ役のカロリーナ・バンクは監督の夫人です。