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特集「ベストコレクション」

2019年2月15日

特集「春の星/如月のベストコレクション」⑤ 
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(2018年 社会派映画)

監督 ショーン・ベイカー

出演 ウィレム・デフォー/ブルックリン・プリンス

シネマ365日 No.2756

明日は見えない 

特集「春の星/如月のベストコレクション」

 ショーン・ベイカーは「タンジェリン」の監督です。デジタル時代に珍しくフィルムで撮っています。「映画はセルロイドから始まった」という事実を忘れるべきではないと言います。今の製作と逆行するようですが、感性は先端的です。「タンジェリン」でもそうでしたが、彼はいわゆる「物語」が嫌いで、仕立ておろしのようなドラマティックな筋書きはカケラもありません。肌触りがザラザラしていて(デジタルのツルツルした光沢ではなく、フィルムのこういう感触が好きだそうです)、唐突な場面の転換にハッとさせられ、登場人物のだらしなさ、怠惰な生活に見ている方は嫌気がさしてくるし、それなのに感情の底にジワッとたまる、やりきれなさは疑いもなく、本物の重さを押し付けます▼フロリダ・プロジェクトとはディズニーランドのプロジェクト名でした。ディズニーランドの近郊にある安モーテルに、主人公ヘイリーと6歳の娘ムーニーが住んでいる。度々家賃を滞納する。そのたび管理人のボビー(ウィレム・デフォー)が回収に行く。アメリカのサブプライム以降の貧困で、ヘイリーは家を失った。いわゆるヒドゥン・ホームレス(隠れたホームレス)だ。アパートや家に定住できずモーテルを家代わりにする貧困家庭が、夢の国ディズニーランドの隣に集まっている。定職もない。貧困層が永続して就業できる職そのものがないのだ。ヘイリーはモーテルの階下に住む友だちスクーティの勤めるレストランから余り物をもらってくる。ムーニーを連れてパチ物の安い香水を観光客に売りに行く。断られると「なら、お金を2、3ドルくれませんか」と頼む。今は夏休みで、ムーニーは仲間と毎日遊んでいる。ヘイリーは赤貧と言ってもいい暮らしなのに、働く気はない。物乞い同様でも気にするふうはない。これはどうしてだ。フロリダの空が突き抜けるように青いせいか▼ボビーはできるだけヘイリーの力になろうとするが、ヘイリーの社会感覚が子供の延長線上だから、コミュニケーションが双方向に取れない。態度も悪いし言葉遣いは品くだる。人から注意されると火に油をそそぐように怒り狂う。ボビーはヤワな男ではなく、「3つ数えるうちにここを出て行け。行かなければ突き出す」。実力行使も辞さない。ヘイリーは外に出て、ちょいとしゃがんだと思うと、ペタッ。染みのあるナプキンをウィンドーに貼り付け猿のように走り去るのだ。ムーニーらが空き家探索と称し、無人の家の暖炉で枕を燃やしたことから大火事になった。スクーティはムーニーとは付き合うなと言い、食料提供も断る。彼女はヘイリーが部屋で売春を始めたことを知っていた。やがて児童福祉局が来た。ヘイリーは娘と引き離される。ムーニーは多分里子に出されるだろう。福祉局の担当者はその方が娘のためだと思っている。ムーニーは親友のジャンシーに別れを告げに行く。「もう二度と会えないよ」大粒の涙を流す。ジャンシーはムーニーの手をつかみ走り出す。野原を抜け、彼女らが潜り込んだのはディズニーランドだ。正面に夢の国の城が輝いている。ふたりはそこに向かって走っていった▼ピンクやブルーの屋根や壁の華やかな建物は、バブル時に購入された住宅だろう。みな手放して散り散りに去っていった。道は雑草で覆われ、家々の庭という庭は草が伸び放題。経済機構の切り捨て政策によって、這い上がれそうもない貧困層が社会に生じた。ヘイリーの自堕落な生き方は、這い上がれない社会の仕組みへの絶望か。その日暮らしでどうやって子供に教育を与え、自立できる基盤を作ってやるのか。フロリダの光溢れる空の下でも明日は見えない。