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特集「ベストコレクション」

2019年2月16日

特集「春の星/如月のベストコレクション」⑥ 
ビガイルド 欲望のめざめ(2018年 サスペンス映画)

監督 ソフィア・コッポラ

出演 ニコール・キッドマン/コリン・ファレル/キルスティン・ダンスト/エル・ファニング

シネマ365日 No.2757

猛毒女子学園 

特集「春の星/如月のベストコレクション」

 ソフィア・コッポラ監督の、薄く透明に美しくというポリシーがますます著しい。1864年南北戦争の最中に、ヴァージニアの森の中に女子学園がある。マーサ校長(ニコール・キッドマン)、先生のエドウィナ(キルスティン・ダンスト)のほか5人の生徒たち。家に帰れなかった子供たちが学校に残っており、年の頃は1015歳くらいか。一番年長がアリシア(エル・ファニング)だ。生徒の一人エミリーが森の中で敵である北軍の負傷兵ジョン(コリン・ファレル)を見つけた。足に怪我して歩けない。肩を貸して学園に連れて帰ったら、マーサ校長は手当して、治ったら出ていってもらおうという。厳粛なカトリックの教えを守る学校だから、親切に手当してあげるのである▼コッポラ監督は本作のオリジナル「白い肌の異常な夜」が男目線だったから、女性の視点で捉え直したと言っている。で、どうなったかというと、闖入者である男によって女全員がそわそわして色気づき、男の関心を引こうとし、男に期待する。男もけっこう調子よくてエミリーには「君はいちばんの友達だ」。エドウィナには「あなたのような美しい人に出会ったのは初めてだ」。マーサ校長には「あなたの努力は素晴らしい。敬服します」、早熟のアリシアにはそれなりの周波を、それぞれ最も認めてほしい点をうまくつく。エドウィナは学園を出たくて仕方ない。男が一緒に行こうという言葉にのめり込む。男にしたらみなチヤホヤしてくれるし、衣食住の心配はないし、庭の手入れや畑仕事を手伝えばいいのだから、どこまで学園を出たかったのかわかったものではない。多分エドウィナの気を引きたかっただけだろう。マーサ校長まで、手当とはいえ、男のたくましい胸や肩や腕を洗いながらクラクラする。二人の成熟女性は夫と死別か離別かだろう。男を見る、まして触れるのは何年ぶりかで胸がドキドキする▼副題は「欲望のめざめ」である。いくら男が珍しいといっても、行きずりの素性もわからぬ男を、先を争って取り合いするのだ。男は絶滅の危機に瀕しているのか? 時代は19世紀、人里離れた森の中で過ごしているのだから、男にすれていないゆえだと思おう。その割には年端もいかぬ女の子たちの行動は的確ではないか。フリフリのドレスにオシャレして、メークもバッチリ決めるなんて。ところがたちまち女の子たちは猛毒女子に変身し、平和な学園はジストピア(地獄郷)に変貌するのだ。マーサ校長は「このままでは命に関わる」とあっさりジョンの足を切り落とすし、ジョンはショックで「死んだ方がマシ」だと言って晩餐のテーブルに襲いかかり、女性たちを脅しあげる。昨日まで笑顔を絶やさぬ気遣いのあるお兄さんみたいな男が狂ったように暴れ出した。いけない、殺してしまおう。そうくる。激変である。平和の学園は猛毒女子のジストピア(地獄郷)に激変した▼つまりこれが、コッポラ監督の女性の視点なのですね。こわ〜。そこを体現するのがやっぱりニコール・キッドマンだ。女の子たちを、ひな鳥をかばう母鳥のようにそばに置き、満足の微笑を浮かべる。殺すと決めた後の手順のいいこと、素早いこと。さっさと毒キノコを集めて食卓にジョンを招き、美味しそうに好物のキノコを食べるジョンに微笑む。結末を知らないのはエドウィナだけ。でも男がのたうって絶息しても、みな平然としているのを見て、(殺人だ)と勘づくが多勢に無勢、ここは黙っているしかないと行動を共にする。男を袋に包み、負傷者がいる合図である青い布を門に結ぶ。全員が玄関に勢ぞろいし、静かになりゆきを見守るシーンは魔女グループかと見まごう。チームワークの見事さをみよ。従来とらえどころのないふわふわと美しいムード優先と思われたコッポラ監督の作品の中では、いちばんハッキリしていて良かったのではないですか。