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特集「ベストコレクション」

2019年2月26日

特集「春の星/如月のベストコレクション」⑯ 
女は二度決断する(上)(2018年 社会派映画)

監督 ファティ・アキン

出演 ダイアン・クルーガー/ウルリッヒ・トゥクル/デニス・モシット

シネマ365日 No.2767

すべてを奪われた 

特集「春の星/如月のベストコレクション」

 クルド人のヒロイン、カティヤ(ダイアン・クルーガー)を中心に、人種差別を描き出した佳品です。カティヤは夫ルーリと獄中結婚、彼が出所して一年、息子ロッコに恵まれハンブルグのトルコ人街で翻訳や移民の税務相談をして幸福に暮らしていた。ヌーリは獄中で独学し出所して起業したオーナー経営者だ。でも学生時代に大麻の不法所持で逮捕された前歴がついて回った。彼の店の前で釘爆弾が爆発、父と子は即死。カティヤは心神喪失状態となりバスタブで手首を切り自殺を図る。失神直前、友人であり、弁護士であるダニーロ(デニス・モシットー)から電話で「犯人が逮捕された、君の言う通りネオナチだった」。警察は犯人が東欧系、中東系だと見当をつけていたが、カティヤは「違うわ。ドイツ人よ」と断言していた▼根拠となったのは爆発寸前、店の前で不審な若い女を見かけたこと。新品の自転車から降り、そのまま離れようとしたので「鍵をかけないと盗まれるわよ」と注意した。警察は執拗に夫が出所後も裏社会と関係し、犯罪組織と取引していたのではと追及した。事件後のショックで神経が参っていたカティヤは微量の麻薬に手を出す。警察が家宅捜索に来てそれを発見し、署に同行させた。裁判が始まった。被告人は若いドイツ人夫婦だった。法廷劇でもあり、サスペンスでもあり、カティヤをめぐる心理劇でもあり、重構想の仕掛けは、どこに行き着くのか。ファティ・アキンの「愛より強く」「ソウル・キッチン」で見られたヒューマンな、あるいはユーモラスな構成やセリフは影を潜め、ひんやりした手触りのまま、カティヤの悲劇を彫り込んでいきます。監督自身トルコ人を両親に持ち、ハンブルグに移り住んだ「ドイツの異邦人」という観点が、この作品だけはなんとしても妥協しないという、鉄板意志で作っています▼敵側弁護士がやり手でして、カティヤが麻薬に手をつけていた、意識は正常でなかった可能性がある、従って証言は無効である、彼女が目撃した自転車の女は見間違えもありうると揺さぶりをかける。被告人の義父が出廷し「息子はヒトラーを崇拝していた。息子の行為は愚かで悪質で卑怯です。遺族の夫人に心からの哀悼を」と証言し、法廷は言い難い証言をあえてした義父に無言の敬意を示す。彼を演じたのはウルリッヒ・トゥクール。「善き人のためのソナタ」「セラフィーヌの庭」「白いリボン」など、難しい監督から頼りにされる役者です。敵弁護士は被告人夫婦のアリバイを偽証させる証人まで捏造し、法廷を混乱させる。極右のテログループがグルになっていた。カティヤの弁護人ダニーロは反撃に出た。「夫人は自転車の荷台にボックスがあったと証言したのは、鑑識が中に爆弾があったと発表する前です。無施錠で新品の自転車という点も同様だ。彼女の証言能力は証明ずみです。自転車を止めた女はあの被告人で夫も同罪です。彼らの自宅のガレージで作られた爆弾は現場の爆弾と同じだった。夫人の薬物検査も証言能力の査定も不要です。二人は下劣な動機により私の依頼人の家族を殺害した。弁護人の法廷の混乱だけを目的にした陽動作戦には吐き気がする。以上!」傍聴席から拍手がわき起こった。監督は一言もそう言わせていないが、警察の取り調べ、敵弁護人の誘導に根強い移民差別、人種差別があることを示していく、それを表すのが他ならぬダイアン・クルーガーの憎しみと悲しみ、嘆きであり、幸せだった家族の追憶であり、移民排撃テロによって理不尽に、すべてを奪われた女性の絶望の姿です。