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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2019年3月9日

特集「映画に見るゲイ11」283 
犯罪河岸(上)(1949年 ゲイ映画)

監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー

出演 ルイ・ジューヴェ/シモーヌ・ドラン

シネマ365日 No.2778

彼女が一人目のゲイ 

特集「映画に見るゲイ11」

犯罪河岸の「河岸」とは原題の「オルフェーヴル河岸」から来ています。同河岸36番地にパリ警視庁があり、刑事アントワーヌ(ルイ・ジューヴェ)が主人公です。本作はフィルムノワールの傑作として高い評価を受けました。アントワーヌが登場するのは映画も半ば、殺人事件が起こり、歌手のジェニーは自分が殺したと思い込んでいる。夫モーリスもジェニーが殺したにちがいないと信じ、収監されたブタ箱で後追い自殺を図る。でも刑事は容疑者を徹底的に洗い、歌手もその夫も犯人ではないと目星をつける。真犯人は刑事の手で御用となります。が、ここで書くのはその本筋ではなく、ゲイである登場人物二人を登場させることによって、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が秀抜な隠し味を作っていること。1940年代のことですから表現には限界がありましたが、それゆえ微妙な、でもはっきりそれとわかる陰影が映画に奥行きを作っています▼歌手のジェニーは女性から見れば、こういうヒトは足音を忍ばせて黙ってそばを通りすぎるに限る、と思える女性です。夫のモーリスを心底愛しているが、とかく色っぽく、トラブルを引き起こす騒々しい性格。モーリスもジェニーが本来気のいい、悪気のない女だと知ってはいるものの、すぐ男にベタベタするので、その度ケンカが絶えない。彼はクラブのピアノ弾きだ。歌手にレッスンをつけるのも上の空、ジェニーがそばにべったりくっつく金持ちのじい様とイチャイチャするのに気が気ではない。彼らのアパートの下の階にカメラマンのドラ(シモーヌ・ドラン)のスタジオ兼自宅がある。彼女はモーリスと幼馴染だ。従ってジェニーとも仲のいいお付き合いをするが、ドラが惹きつけられているのはジェニーだ。根っからのストレートであるジェニーは気がつくはずもない。逆に夫とドラが恋愛関係ではないかと疑るが、それこそドラにはありえない▼雑誌の撮影でジェニーがドラのスタジオにいる。ポーズをとらせるためにドラがジェニーの腕に触ると顔をしかめ「触られるのは嫌いなの。言葉で説明して」。「そうなの? モーリスも大変ね」「彼には触られても平気よ」「お盛んなの?」「いつも同じ質問よ。よほど興味があるのね」「まったく似ていない変わった夫婦だから。男が女を完全に理解するのは不可能よ」。二人の会話はスレ違いだが、ドラの抱える深層が大雑把なジェニーにわかるはずもない。ある夜ジェニーが駆け込んできて男を殺したという。癖の悪いエージェントで「下劣で危険な男だとあれだけ忠告したでしょ」ドラは怒るが、現場に毛皮を忘れてきたという間抜けなジェニーを責めもせず「私が取ってくるわ」と大胆にも深夜出かけ、死体の横たわった部屋で冷静にジェニーの指紋まで拭き取ってくるのだ。撮影した写真の出来栄えにドラはうっとり見とれ、ジェニーに見せてあげよう。階段の途中ではモーリスとジェニーが座り込み熱い抱擁を交わしている。思わずドラは顔を背ける。モーリスは挙動不審の妻の後を追いかけ男の屋敷で死体を目撃している。ジェニーが犯人に違いない。どうしよう。モーリスはドラのもとに駆け込み「僕はバカだから君がいないとダメだ」と嘆く。昔も今も男は女に救済を求めるのね。ドラ「気にしないで。私は変わり者だから」。クルーゾーはここでドラが異端の女であることをはっきり示しています。彼女が一人目のゲイ。あと一人は?