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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2019年3月10日

特集「映画に見るゲイ11」284 
犯罪河岸(下)(1949年 ゲイ映画)

監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー

出演 ルイ・ジューヴェ/シモーヌ・ドラン

シネマ365日 No.2779

河岸36番地の刑事

特集「映画に見るゲイ11」

 ジェニーとモーリスが働くクラブの情景がいい。舞台裏を馬が通る。犬たちが後ろ足で立ってみせる。ブランコ乗りの女がゆさゆさとブランコからぶら下がる。次のステージを告げる司会者の口上。マイクはないが場慣れたよく通る声だ。客席はヒラだけ。特別席もなければ上席もない。家事と仕事を終えた男や女が大口を開けて笑い、両手を上げて喝采する。刑事アントワーヌが黒い影のように聞き込みに回る。刑事はドラのスタジオを訪ねる。「殺された男とは?」「私みたいな女はダメなの。男は思いのままになる若い子がいいのよ。なぜ私のところに?」「私も写真を撮る。家や通りや商店だけどね」そしていきなりバルニヴァルという犯罪者を話題にする▼「すごい男だよ。でも毒を盛る悪い癖があった。妻と二人の娘と義理の兄を殺し、最期を写真に撮った。まるでアーティストだ。友人が裁かれるのは辛かった。犯罪者と友だちになることもある。偽物作りに彫刻を、詐欺師に経理を習った。タクシー運転手にはタンゴを。でも才能がなかった」。ドナは刑事が表に出さない一面を知る。「君はモーリスか殺された男の愛人か」「二股かもよ」「ところが君は色恋沙汰には興味がない」。モーリスはアントワーヌの尋問に追い詰められ拘置所で自殺未遂。当夜の行動をゲロする。「ジョニーも白状したよ」と刑事は拘留しているドラに告げる。「ウソよ。私が殺したのよ。シャンパンの瓶で殴って」「奴は心臓を撃たれていた。殴られて死んだのじゃない。あの夫婦は殺していない。君もね。ジョニーは犯人ではないが罪に問われるかもな」「彼女を助けてください」「友だち思いなのだな」「大事な人なの」「そうだろうとも。彼女は釈放しよう。真犯人には心当たりがある。礼はいらん。仕事だからな。それに君が気に入ったのだ。ドラ・モニエさん」「どうして?」「似た者同士だからだよ。女とは上手くいかないものだ」▼鋭く光る目、とんがったワシ鼻、ドスの効いた低音。これ以上強面はいないと思わせるルイ・ジューヴェが、さりげなくドラに自分のセクシャリティを打ち明けるラスト。緻密な推理、非情な尋問、容赦ない聴取、一枚一枚カードをめくっていく事実の検証。同時に写真が好きで犯罪者に彫刻を習い、タンゴを踊りたかった刑事。監督は彼のアーティスティックな感性を愛しています。その彼にゲイだと言わせたのは成り行きでしょうか。偶然でしょうか。監督クルーゾーがそんな間抜けでしょうか。彼はマイノリティに、社会の異端者に、変わり者と呼ばれる似た者同士の男と女を主役と準主役にし、世間の幸福を望むジェニーとモーリスとは異なる際立った存在にしました。ドラは自分の仕事を持ち、これからも女に惹かれていくに違いない。河岸36番地の刑事は、世間一般の通念に妥協しないドラが気にいっている。監督はこの二人の人物を登場させたことによって、単純なミステリーに、それぞれの人間にそれぞれの愛し方と生き方がある、心理の襞を描き込みました。1940年代という時代を考えると、稀に見る造詣だったと思えます。