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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2019年3月13日

特集「映画に見るゲイ11」287 
テルマ(上)(2018年 ゲイ映画)

監督 ヨアキム・トリアー

出演 エイリー・ハーボー/カヤ・ウィルキンス

シネマ365日 No.2782

恐るべき娘 

特集「映画に見るゲイ11」

 北欧ミステリーの佳品です。ヒロイン、テルマ(エイリー・ハーボー)が自己束縛から解放されるきっかけを与えるのが、同じ大学の女子学生アンニャ(カヤ・ウィルキンス)との恋愛です。ノルウェーの厳しく美しい自然を背景にキリスト教徒として厳格な家庭で育ったテルマ、という設定ですが、両親は厳しいというよりイビツでして、大学生にもなった娘に「午後の講義はなんだった?」「生物学よ」「生物は火曜の朝8時からのはず」「今週だけ変更よ」「今夜は何を食べるの?」「パスタと、あと何か」こんなやりとりが毎日繰り返される。テルマはそれが両親の愛情だと信じている。図書館で痙攣の発作を起こしたテルマを、隣席のアンニャが介抱した。てんかんを疑ったテルマは病院で検査を受けるが異常なしだった。その夜テルマは黒い蛇の夢を見る。いうまでもなく蛇は闇世界の使徒です▼アンニャからフェイスブックの申請があって二人は友だちになる。田舎から父と母が寮生活の娘を訪ねた。母親は車椅子だ。「時々自分が人より優位に見える。彼氏といる女の子を見ても羨ましくないし、話していることがバカみたい」。父親は「わずかな知識で偉ぶるな」と言うし、母親は一方的に父親支持だ。親は娘を全面否定なのである。こんな両親じゃたまったものじゃないか、と思わせながら物語は進む。だんだんテルマのサイキックな予知能力が表れる。夜中に誰かいる気がして目が覚め、窓の外を見ると実際にアンニャが立っていた。夜更けなので部屋によび入れ泊まらせる。今まで感じたことのない熱い温かい感情をアンニャは与えた。アンニャが帰ったあとベッドに落ちていた彼女の細い髪一本をかざし、テルマはいつまでも眺める。二人は接近する。パパがろうそくの火に手をかざさせて火傷しかけた、地獄はいつもこうだとパパは言った…アンニャ「お父さんに怒りを感じない?」「パパはやさしい人よ」「父親になんでも話すの?」「そうよ。間違っている?」アンニャの顔(いい年して、ついていけん)。同時にアンニャもまたテルマへの欲望は日増しに強くなる。図書館の一室である日激しく抱擁する▼検査の結果てんかんではなかった。心因性非てんかん発作であり「精神的抑圧の肉体の反応です。遺伝的素因が気になります」テルマは自分が幼児期精神不安定の薬と一年ほど投与されていたことを知る。開業医の父の指示に従ったとテルマはいうが、医師は訝しそうに「子供に与えるには強すぎる薬です。お祖母さまは精神疾患だったとか」「ずいぶん前に亡くなったので詳しくは知りません」「おかしいですね。お祖母さまは老人ホームで存命中です。あなたの精神科受診を手配しておられました」。テルマは施設に行く。祖母は知覚を失い何も理解できなくなっていた。看護師は「以前は聡明な人だったのに。お父様の与える薬が強すぎたのです。でも処方を変えられませんでした」。度重なる発作に苦しんだテルマは一時帰宅する。父は精神安定剤を飲ませる。眠りに落ちかけるテルマの耳に聞こえる。「辛い話だ。お前に弟が生まれて間もなく家から消えた。弟はどこだと問い詰めると湖の氷の下にいた。母親は自殺を図り失敗し、後遺症で車椅子となった。お前には力がある。全身全霊を込めて何かを願ったら力がそれを叶えてしまう」。母親は弟が産まれ自分をかまってくれなかった、弟がいなければというテルマの強い願望が「願いを叶えた」のだ。テルマは狂ったように祈る。「神よ、許し給え。私は欲望を求めました。父に怒りを覚えます。父の期待が重荷です」。そしてアンニャが失踪した。父と母はこんな会話を交わした。「もう無理よ。自分たちを欺けない。あなたは善人よ。でもそれでは太刀打ちできない」。テルマは両親が自分を亡き者にしたいことを知る。「お祖母ちゃんに会った。私にも同じことをする? 私を自由にして、パパ」。娘の超能力が恐ろしくて両親は長いあいだ封印しようとしてきたわけね。二六時中監視してきたのは、娘がどこかで力に目覚めないかと恐れたからでしょう。確かに弟の一件は悲劇だった。でもそれとテルマを精神的牢獄に監禁するのとは意味が違う。人はみな人と違っているのが当たり前だわ。違い方としてたまたまケタ外れの能力を伴っていたというのは、いいことかそうでないことか誰にもわからない。まして「彼女を愛している。彼女も愛してくれている」と、娘がたった一つ見つけた希望を「彼女は愛してなんかいない、お前がそう仕向けたのだ」なんて、娘の力は「悪用ありき」で発想するのは医師として選択肢がなさすぎるし不自然だわ。祖母の実情を知った以上「パパ、消えて」とテルマが意識下で願望するのは時間の問題よ。その通りになる。父親は湖で行方不明になる。あんまり同情できなかったのだけど。ひどいかな。