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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2019年3月14日

特集「映画に見るゲイ11」288 
テルマ(下)(2018年 ゲイ映画)

監督 ヨアキム・トリアー

出演 エイリー・ハーボー/カヤ・ウィルキンス

シネマ365日 No.2783

力の使い方 

特集「映画に見るゲイ11」

 湖に浮かぶ小舟から父親の姿は消えた。助けようとして一旦沖に出たテルマは岸辺に戻った。頭上に広がる青空、空を飛ぶ鳥影に吸い込まれる。生まれて初めて呼吸らしい呼吸をしたようだ。ハツラツとして家に戻り荷物をバッグに詰め込む。母親は夫が戻ってこないことで、何が起こったか察したらしい。怯えきって「行かないで」と叫ぶ。テルマは母親の頬と、不自由な脚に手のひらを当て出て行く。追いかけようとした母親は、自分の脚で立っていることを発見する。こういう力の使い方もあるのだから、悪いことばかり想定して心を金縛りにするのはやめたほうがよかったわね。力を何に役立てるかは、要はテルマの気持ち次第なのです。彼女は大学に戻った。キャンパスは明るく日差しに溢れ、学生たちが行き交う。テルマはベンチに座り本を広げた。次に何が起こるかもうわかっている。アンニャが近づき後ろから自分を抱くのだ。近寄った人影はやはりアンニャ。テルマの首筋にキスし笑顔を交わす。失踪したはずじゃなかった? 失踪とは誰も言っていませんよ。ケータイがつながらなかっただけでしょ。湖から命からがら這い上がってきたテルマのケータイに発信者「アンニャ」と入ったじゃない。失踪は物語を意味ありげに見せるマクガフィンよ▼ただ彼女がテルマの激しい想念によって、アンニャが空中に吸い込まれるシーンはブライアン・デ・パルマの傑作「キャリー」へのオマージュみたいです。テルマは自分のためにアンニャを不幸に巻き込んだと思っているから、もう会わないと思ったのね。アンニャは母親と一緒の観劇にテルマを誘い、指先を膝から上に這わせていく積極的な子です。緊張のあまりテルマは痙攣を起こしちゃうのだけど。ベッドシーンはなし。ヒジョーに慎ましいラブシーンで終始しますが、テルマが自分の欲望に浸る時に必ず現れるのが黒い蛇。するすると膝から這い、胸をS字型に滑り、口から喉、喉からさらに奥へ侵入する。オエッ。そうそう彼女が母親の脚を治してあげるというやさしさについて。母親は普段から冷たくテルマを見ているだけで、情愛は薄いように思えたのですが、それでもやはりテルマにとって母は母だったのでしょうか。そうかなあ。違うわよ。父親は湖の底に消してしまい残るのは母だけだ。彼女が一人になったら家族はテルマだけ。介護のため家に残らざるをえない。そうならないために母親をピンシャン歩けるように、家事くらい自分でできるようにしておかねば、アンニャとの二人の暮らしは実現できない。だからテルマは治したのよ▼ヨアキム・トリアー監督は名前からわかるように、ラース・フォン・トリアーの甥。前作「母の残像」より本作の方が格段によかった。たちまちハリウッドが目をつけクレイグ・ガレスビー監督でリメイクが決まりました。ガレスビー監督で安心した。彼の「ラースと、その彼女」のライアン・ゴズリングは、「ラ・ラ・ランド」の彼よりよかったと未だに思っています。最近の監督作では「アイ・トーニャ/史上最大のスキャンダル」があります。