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特集「フレンチ・ノワール」

2019年3月15日

特集「フレンチ・ノワール」① 
密告(1950年 犯罪映画)

監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー

出演 ピエール・フレネー/ピエール・ラルケ

シネマ365日 No.2784

赤黒いカオス 

特集「フレンチ・ノワール」

 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の「悪魔のような女」にいかれて以来彼のファンです。主演のシモーヌ・シニョレもよかったけど、クルーゾーの作品は女優や俳優がいないシーンがとてもいい。しんきくさいセリフに頼らない。本作は90分の短い尺の中に見とれるようなシーンがちりばめられています。先走りますが劇中、教会の天窓からヒラヒラと紙片が舞い降りてくる。密告者「カラス」が暴き立てるスキャンダルによって、夜もおちおち眠れなくなった村の人々は、真昼の悪夢のように音もなく床に落ちた白い小さな封筒を見つめる。と思うと冒頭は生真面目な表情のジェルマン医師(ピエール・フレネー)が、渋ヅラを作って血だらけの両手を金ダライで洗い、手を拭きながら「赤ん坊はダメだった。母親は助かった」短絡的に言う。のっけから訳ありムードむんむんのオープニングです▼村じゅうに怪文書が出回っていました。差出人は「カラスより」。ジェルマン医師も受け取った。「ローラとの不倫をやめろ」。ローラとは精神科医ヴォルゼ医師(ピエール・ラルケ)の若い美人の妻です。牧師には「老いた豚野郎め。堕胎医のジェルマンと仲良くしておけ。お前の娘のジャネットが外科室に長時間入り浸るなら彼の助けがいる」「ドルーズはお前にのぼせて嫉妬した。絶好の手術の機会だな」「13番はジェルマンに殺されていた」。13番とは入院患者の番号で、彼の元に「肝臓ガンで助からない」というカラスの手紙が届き、患者は絶望して自殺してしまったのです。容疑者として看護師のマリーが逮捕されるのですが、その後も密告は後を絶たない。「マリーは犯人ではない。今後も私は村の浄化を続ける。カラスより」。ドルーズは一夜限りのジェルマンの情事の相手だった。幼児期に兄と事故にあい、兄は腕をなくし彼女は股関節を痛め、リハビリに5年もかかった。村の有力者たちが集まる。「どの文書にも共通の名前はジェルマンだ」「医学名簿を調べたがジェルマンは載っていない」▼ヴォルゼ医師の分析によれば「匿名の手紙を書くのは謎めいた理由だよ。多かれ少なかれ性的抑圧のある者だ。未亡人、性的不能者、屈辱を受けた老人、隠された劣等感が恨みを生み出すのさ」。しかるにカラスの手紙は2カ月で850通に及び「一人でここまでやるとは考えにくい。夫と妻、兄と妹とかが毎晩一緒に手紙を書くにちがいない」。ヴォルゼ医師は村人を集め筆跡鑑定をするが確証は得られない。村の有力者たちは、手紙に共通する名前がジェルマン医師であることから「カラスの標的はジェルマンだ。彼を追い出せば村は平穏になる」と荒っぽい結論を下す。ジェルマンも嫌気がさして荷物をまとめ村を出ようとする。憎悪と中傷の嵐によって村人の倫理観は堕落し、寄ると触ると噂話。ドルーズがジェルマンを訪ねてきた。彼の子を妊娠していた。医師は「自分は父親にはなれん。処置してやろう」ドルーズは取り合わずローラに会いに行ってと頼む。「殺すという手紙を受け取ったのよ」▼ローラは美しい。ジェルマンを迎え差し伸べた手の指にはインクが付いていた。まだ乾いていない。ジェルマンが机の上の吸取り紙を鏡に映すと紛れもない「カラス」の脅迫文だ。夫の告白によればこうだ。「妻の精神的な異変には気づいていたが通報する勇気がなかった。若い妻と老いた夫の悲劇だよ。結婚すべきじゃなかった」。しかしマリーは「最初の手紙は私よ。あとはでも夫が書いたの」。妻は精神病院に収容され夫は自殺してカラス事件は終わる。ジェルマン医師はパリの脳外科医だった。妻の出産を「有名な外科医に託したが、最悪の事態になった。バカな医師は無理やり出産させ母子ともに死んだ。妻の死とともに私も死んだも同然だ。私はジェルマン医師としてこの村に来た」。不倫、情事、嫉妬、性の抑圧、コンプレックス、欲望のはけ口としての弱者虐待。それぞれの暗部がカラスによって暴きだされた。「犯人は誰?」より、犯罪を作りだした赤黒い心理のカオスが見事だった。