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特集「フレンチ・ノワール」

2019年3月21日

特集「フレンチ・ノワール」⑦ 
パニック(下)(1946年 劇場未公開)

監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ

出演 ヴィヴィアーヌ・ロマンス/ミシェル・シモン

シネマ365日 No.2790

女の愚かさを暴く 

特集「フレンチ・ノワール」

 アリスがイールを籠絡する間に、アルフレッドは着々と落とし穴を深く掘る。酒場で「彼の部屋に奇妙な本がいっぱいあった。催眠術や占いだ。彼が写真に針を刺すと頭なら頭痛がする、心臓ならショック死する」「危険人物じゃないか」「ノブレ殺害にも関係しているかも。いやな目つきをしている」「イールは肉の質にうるさい。血が足りないと文句を言う」「うちの娘を妙な目つきで見てリンゴで釣ろうとした。小児性愛者かも」イール包囲網が張られ、無責任な噂がさらに輪をかける。アリスはその夜イールの部屋で結婚を承諾した。イールは婚約を祝おうとシャンパンを買いに行った。酒場では「イール氏に制裁を」叫ぶ男たちが半分狂ったように声を荒げている。わずかに「イールは支払いを滞らせたことはない。君たちの言っていることは不合理だ」とりなす人物の声はかき消された▼この騒ぎの中にイールをおびき寄せるのだとアルフレッドはアリスをそそのかす。アリスはやっと行き過ぎではないかとためらうが、男の罪をかぶって刑務所にまで入る女だから正否の判断がつくはずもない。イールの部屋に無断侵入した住民らは椅子も家具も窓から放り投げ、アルフレッドはアリスが隠したカバンをこれ見よがしに掲げ、ついにイールは殺人犯にされる。偽りの電話によってイールは広場に来た。イール逮捕劇を見ようと住民らは物陰に隠れている。人気のない広場はシンとした虚無空間だ。路上に散乱した家具にイールは怒りをたぎらせ住民を罵倒する。売り言葉に買い言葉。理性は吹っ飛んだ。集団リンチに集団狂気だ。イールに死刑を、極刑を、叫ぶ住民らは彼を建物の屋上に追い詰める。イールは転落死する。遺品となったカメラを開けた警視はメモを見つけた。「僕が用を足しに河原に行ったとき、アルフレッドが殺人を犯した現場に遭遇した。写真を撮った」。アルフレッドとアリスは折しも町にテントを張っている移動遊園地の遊具に乗った。軽やかな音楽。高揚する完全犯罪の達成感。肩を組んだ彼らの前には希望のかなった未来が広がっているはずだった。「太陽がいっぱい」のラストに似ています。原作と大幅に異なったエンドに当初は違和感を覚えたのですが、ひょっとしてルネ・クレマン監督は本作のラストの見事さへのオマージュにしたかったのかも▼女が身を滅ぼす男もいれば女に身を滅ぼす男もいるが、本作では女の愚かさが暴き立てられています。せめて犯罪者二人を絞首台送りにしたことが、ジョルジュ・シムノン流の「救い」でした。

 

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