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特集「偏愛力」

2019年3月26日

特集「偏愛力6」④ 
アニー・イン・ザ・ターミナル(2018年 コメディ映画)

監督 ヴォーン・スタイン

出演 マーゴット・ロビー/サイモン・ペグ

シネマ365日 No.2795

サイモン・ペグ 

特集「偏愛力6」

 ケバケバのネオン、陰鬱で怪しげなバーにストリップ、出入りするいかがわしく滑稽な男たち、古いノワール感覚をちりばめたスクリーンにはどこか懐かしさが漂う。地下水道のような駅のターミナルにうらぶれた、行き倒れ寸前の国語教師ビルが(サイモン・ペグ)が現れる。駅の掃除人が「終電はもう出た。始発電車は朝の4時までこない」時間をつぶすところはないかとビルが訊くと、ホームの突き当たりに24時間営業のダイナーがあると教える。亡霊か悪霊か、いや怪獣が出てきてもおかしくないダークな空間。ダイナーのカウンターにはウェイトレスのアニー(マーゴット・ロビー)がいる。誰が見ても素人の風情ではない。濃いメークにつり上がった目。馴れ馴れしく客に近づき彼が死の宣告を受けた患者だとわかる。そこでかますのだ「こう考えればどう? 無秩序になるチャンスよ。レイプでも盗みでもケンカでもやりたい放題よ。日曜日には死んでいるのだから」▼ビルは弱々しく頷き、奇妙なアニーのペースにはまる。殺し屋の男二人組がダイナーに来る。アニーのことを「偽ブロンドの姐ちゃん」と呼ぶ中年男と、アニーに気がある若い男。彼らは裏社会の黒幕フランクリンから殺しの仕事を請け負った。アニーはボスに会い、殺しの仕事は自分に任してほしい、あの二人は始末するからギャラは自分にくれと掛け合った。クレイジーで病的でばかばかしいのだが、マーゴット・ロビーがウィトレス、看護師、ストレートの黒髪、ポールダンスのストリッパーと七変化、彼女の目的は何か。彼女はフランクリンにある人物を探してくれと頼んでいる。キーマンはビルだ。ミステリーとも言えるが込み入った内容ではないのでネタバレして差し支えない。アニーは子供の頃殺人現場を見た母親を殺され、家は火事で焼かれ双子の妹と二人、施設に入った。そこの教師がビルで、性的虐待を受ける。アニーの目的は母親の殺害と自分たち姉妹の虐待の、二重の復讐を果たすことだ▼本作のほとんどはブタペストで撮影された。ビルの墓場とされる禍々しい工場跡の穴は、トマ・ジュリオンの写真集「世界の美しい廃虚」にあるベルギーの発電所跡によく似ていた。天蓋の下に、地の底にまで続くような巨大な穴がぽっかり開いていて、アニーはポイとビルを突き落とす。殺し屋たちも同様に葬られる。廃虚の虚無感とアニーのケバイ存在が絶妙な破調のアンサンブルになっている。もう一つは黒幕フランクリンだが、時々ふらふらと現れてはニヤリとする駅の掃除人の正体がそれ。演じるのはマイク・マイヤーズ。次作が「ボヘミアン・ラプソディ」ですから、彼にとって「アニー」は縁起のいい映画となりました。とってつけたような双子オチは呆気にとられるけど、廃虚とノワールのコンビネーションが絶品だったことに一票。人っ子ひとりいない駅の長いプラットホームは冥土へつながる秘密の通路のように闇に吸い込まれる。掃除人がビルに突きつけるセリフの意味はこうなるのでしょうか。命を乗せたお前の最終電車は発車してしまった、未来の電車はもう来ない、ダイナーがありそこには殺し屋が待ち受けている。命にも希望にも、人生の全てから見捨てられた男…心と体の廃虚を演じたサイモン・ペグの存在感にも一票。