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特集「ベストコレクション」

2019年4月7日

特集「桜貝見つけた/4月のベストコレクション」⑦ 
心と体と(上)(2018年 恋愛映画)

監督 イルディコー・エニュディ

出演 アレクサンドラ・ボルベーイ/ゲーザ・モルチャーニ

シネマ365日 No.2807

シカの夢 

特集「桜貝見つけた/4月のベストコレクション」

 室内楽を聴くような静かな映画。初老の男性と社会不適合な若い女性のラブロマンスです。彼らの出会う場所がハンガリーはブタペストの食肉工場。臨時検査官として着任したマーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)に、財務部長エンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)は惹かれる。マーリアは接触拒否症、コミュニケーション不適合、社交性ゼロ。マリカという愛称で呼ばれるのも「不愉快です」。社員食堂で一人昼食をとるマーリアに「味はどうですか」と話しかけるがマーリアの無表情に話の接ぎ穂がない。そのくせマーリアはアパートに帰り、ペッパーと塩の小瓶で二人の会話をシュミレーションし「うまく切り返せば会話が続けられたのに」と後悔する。だからマーリアも男に惹かれているが、近づき方がわからないのだ。彼女の部屋はチリひとつ落ちておらず家具らしい家具もない。ベッドに机。テーブルに散らばったパンくずを丁寧に集め、床に落とさず手のひらに受ける▼工場に泥棒が入った。盗まれたのは牛の発情促進剤だ。「自分用に盗んだのかも」と社員たち(400キロの畜牛に使うバイアグラを使う度胸ある?)。警察が精神科医を伴い聞き取り調査する。彼女の問診でマーリアとエンドレが毎晩同じ鹿の夢を見ていることがわかる。この情景がファーストシーンです。青い林に降りしきる粉雪の中を、立派なツノのオス鹿と小柄はメス鹿が森林に入り、小川の水を飲んだり、首をスリスリしたり。女医はズバリ「交尾しましたか」。それがしていないのですよ。マーリアは工場で完全に浮いていて、一日中パソコンのデータを見続けていて気味悪がられる。誰かが入ってくると「規則違反です」と追い出す。異常に目と記憶力がいい。2〜3ミリの脂肪の厚みを見分け「規則ですから」と品質をBランクに査定する。それでも同じ夢を見ることがわかってから「それじゃ、今夜も夢で会いましょう」という程度には打ち解けてくる。シカのシーンは再々現れるが、二頭が雪の森をウロウロするだけ、ということはつまり、どっちも気がありながら進展しないのだ。同じ夢を見るなんてンなことあるはずないだろ、なんて考えると寝オチしそうな物語を、イルディコー・エニュディ監督は、シカという潜在意識を絡ませながら美しい映像でつないでいく▼エンドレは「一緒の部屋で寝ましょう。そうすれば目が覚めてすぐ夢の話ができる」見え透いている? でもエンドレは違うらしい。「私はこう見えても紳士です。あなたは私を怖がらなくてもいい」と断言する。もともとエンドレが嫌いでないマーリアは承知する。ベッドの上と床で枕を並べるが暗闇で目はパッチリ。「眠れません」と女。よって「帰ります」。男「話をしましょう」「何の話?」「トランプはどうです?」で、彼らは朝までトランプをするのだ。どうなるの、この映画。シカは出てこないか、シカは。モヤモヤの進展はとうとうシカ頼みである。