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特集「ベストコレクション」

2019年4月8日

特集「桜貝見つけた/4月のベストコレクション」⑧ 
心と体と(下)(2018年 恋愛映画)

監督 イルディコー・エニュディ

出演 アレクサンドラ・ボルベーイ/ゲーザ・モルチャーニ

シネマ365日 No.2808

胸を張って、マーリア 

特集「桜貝見つけた/4月のベストコレクション」

 マーリアは子供の頃からセラピーにかかっていた。先生は「あなたはもう大人だから、成人専門の医師がいい」と勧めるが、マーリアは頓着なく通ってくる。彼女はそれまで自分なりに安定していたから、やきもきして治療する気はなかった。エンドレという「気になる男性」が現れたから、今のままではちょっとまずいかな、と思っている。で、性的関心を持たねばとドラマ3本、ポルノも見たが接触に困難を感じる。マーリアは公園で抱き合っているカップルをジロジロ観察する、牛を撫でる、茹でたポテトを手のひらで圧し潰す、ラブソングを聴く、ぬいぐるみを抱く。涙ぐましい。エンドレは匙を投げ「私の誤解だったのかな。色恋から身を引いて数年。卒業だと言い聞かせ一人暮らしに満足した。今さら一人芝居のピエロにはなりたくない」。でもぬいぐるみやジャガイモで努力したマーリアは無邪気に言う。「今夜泊まります。自分のパジャマを持っていきます」「続けても無駄だ。うまくいかないと思う」。エンドレの「夢の交際」打ち切り宣言に、マーリアは全然表情を変えませんが、ショックを受けたに違いない。その夜バスタブで手首を切るのだ…世話がやけるのう▼そこへエンドレから電話。ガバと湯船から飛び出たマーリアに「私は死ぬほどあなたを愛しています」「私も、です」「じゃ会いませんか」マーリアは傷口をテープでぐるぐる巻いて病院へ。手当を受け会いに行く。やっと二人はベッドインして翌朝。楽しそうに朝食をとり、トマトの汁が飛んだとか飛ばないとかで笑顔同士。けっこうでございますが、習い性となったマーリアは、エンドレのこぼしたパンくずを丁寧に集めゴミ箱に。それを見る男の不安な表情が気になったのだけど、いいか、そこまで心配しなくても。「昨夜は夢を見ませんでした」「私も見なかったように思います」。エンドシーンは雪降る森。シカはいなくなった。欲望が満たされればシカは消えるのです。イルディコー・エニュディはハンガリーの映画監督。カンヌで高評価されたデビュー作のあと、18年の沈黙を破った長編映画です。きめ細かいディテールの描写とヒューマンな視点が際立っています。例えば、トイレでメークするマーリアに掃除のおばさんが声をかける。「男を落とすのかい?」「はい」素直な返事におばさんは好感をもち「それじゃ無理さ。もっと自分に似合った服を着なきゃ。着飾るより姿勢が問題だよ。大切なのは動作。身のこなしひとつで変わるものさ。ごらん」おばさんは瞬時に堂々としたレディに変身した。「ほれ、歩いてみせな」。マーリアは胸を張ってトイレを歩く。この調子でこれからの人生を歩んでいってほしいですね。本作は2017年ベルリン国際映画祭で金熊賞、アレクサンドラ・ボルベールは第30回ヨーロッパ映画祭女優賞を受賞しています。