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特集「貴公子」

2019年5月6日

特集「貴公子」⑥ ダリオ・アルジェント2
サスペリア2/紅い深淵(下)(1978年 ミステリー映画)

監督 ダリオ・アルジェント

出演 デヴィッド・ヘミングス/ダリア・ニコロディ

シネマ365日 No.2836

やはり「変態の詩人」 

貴公子

 本作はよくできた探偵物語ではありますが、不満がないわけではありません。犯人が精神を病んだ母親とするのは「サイコ」傍流ですし、カルロが子供の頃、父を殺した母親を目撃し、トラウマとなって社会不適合の青年となっている。そう、犯人はカルロの母親なのです。ラストにいきなり正体を現すまで、導線が少なくて鮮やかなどんでん返しとまでいかない。えっ、なんであんた出てきたの、というくらい唐突でした。それでもエンタメとして堪能するのはアルジェントが張り巡らした入念なゴシックの雰囲気というか、建物や部屋や小道具の精緻なこしらえというか、人形の顔というか、つまり映画の総合力とでもいうか…▼最初に殺されるテレパシスト、ヘルガは超心理学会で自説を講演しています。「テレパシーは魔法ではありません。霊能や占いとも違い、動物に固有な能力です。人が心の中で考えていることがわかる」そして「この会場に強力な殺意がある。誰かが私を、やめて、出て行って、子供の歌が聞こえる」と錯乱状態になった後、彼女は自宅で惨殺される。事件を解く鍵となる「現代の幽霊屋敷」を書いた作家アマンダは、田舎の一軒家で暮らしている。侵入者が来る。もちろん姿は現さない。クローゼットの中でピカッと光る二つの目。バスタブで殺され息をひきとる寸前、アマンダは湯気の中にダイイング・メッセージを残すのですが、なんと書いてあるのか読み取れない。殺されるためだけの役です。だって見終わってから思い返すと、犯人に彼女らを殺すたっての理由があったからではなく、極端に言えばマクガフィンに近い。それでも主のいない広大な廃屋となった屋敷や、壁に塗りこまれたミイラや、鏡のトリックなど(鏡に犯人が映っています)、な〜んだ、と思わされても卑怯なだまし討ちの感じはしない。アガサ・クリスティ直伝の正々堂々とした謎解きに好感が持てる。本質的にこの映画は簡潔明瞭です。カルロは可哀想に母親が殺人者であり、精神を病んだままでいることを知りつつ大人となり、酒でも飲まずにやっておれない、そんな繊細なゲイの青年ですし、探偵みたいに事件をほじくっているマークはいずれ事実にたどり着くだろう、母親を逮捕させるか、マークを殺すか、二者択一で悩む。何度も事件に関わるな、犯人は危険な人物だと忠告するが、マークは「ゾクゾクするほど魅力がある」と深入りする。母親はーこの事件に至るまで彼女の殺人癖が発症しなかったのか映画ではわかりませんが、今は完全に殺人狂である。母親にとっても息子にとっても死だけが救い。それがわかるから、残忍というより(もちろんそれはありますが)哀切なトーンが主徴の映画です。アルジェントを変態の詩人と位置付けたのも、そんな彼の感性が映画のどこかしこに滲んでいるからだと思えるのです。