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特集「ベリッシマ(美少女)」

2019年5月12日

特集「ベリッシマ(美少女)」③
闇のバイブル 聖少女の詩(1969年 劇場未公開)

監督 ヤロミール・イレシュ

出演 ヤロスラバ・シャレロバ

シネマ365日 No.2842

危険な淫夢 

特集「ベリッシマ(美少女)」

 両親のいない黒髪の美少女ヴァレリエ(ヤロスラバ・シャレロバ)は厳格な祖母に育てられる。ある日、村に旅芸人の一座が来る…ヤロスラバ・シャレロバが伝説の美少女だというので見ました。「闇のバイブル」なんて凝ったタイトルが付いているけど、原題は「アリス・ヴァレリエの不思議な一週間」。これだけで察しがつくように、「不思議の国のアリス」裏版もしくはシュール版です。本作はチェコの映画です。カフカの国ですね。絵画史上ではシューレリズム独自宣言を発しました。1934年のことです。旅の一座には白塗りの黒服の男イタチ、ヴァレリエの兄オルリーク、淫乱な牧師、吸血鬼、サドマゾ、レズビアニズム、魔女、火あぶり、黒塗りの馬車、死んだはずだった母親が娘に会いに来る。ちゃんこ鍋みたいな幻想映画ですが、最後はヴァレリエの夢オチです。少女映画ってなんでこういい加減、もとい、ファンタジックなのでしょうね▼ヴァレリエが初潮を迎えた。性の目覚めにある少女期ですが、この映画にかかるとレイプ寸前に遭い、兄貴はイタチに抑圧され、溺死寸前の拷問にあう。祖母は不意に出会った元カレ(黒服のイタチ)に「あなたはいくつになっても変わらない。私は年をとったわ。出会った時は17歳だった」イタチは哀れそうに女を見やるが、男にしたってくたびれきっていますよ。祖母は男に若返りの薬をくれとねだり、生き血を吸って吸血鬼になる。兄貴が言うには「僕たちの父親は司祭ではない、イタチだ」。まともに聞いていると惑乱します。ばかばかしいと思いながら寝落ちしなかったのは、観客さえどうでもいいと言いそうな、傍若無人ぶりがぶっ飛んでいたからです。純粋無垢の美少女が、日常生活のさまざまな場面で繰り広げられる性的行為の無秩序を目撃する。だいたい牧師がヴァレリエを犯そうと狙うのである▼生真面目なヴァレリエは覗きに始まり、立ち入り禁止だった性的倒錯に引きずり込まれていきます。女性だったら誰でも覚えがありますが、少女時代の熱病のようなセクシュアルな妄想はとどまるところを知らない。制服を脱げば甘酸っぱい桃のような肌が匂い、身体中のそこかしこから、蜜の香りが立ちのぼる。本作には血の流れるシーンが「性」の重要な役割を果たします。生贄にされるニワトリ、吸血鬼の啜る生血はモロ祖母の欲望です。「可愛いい」「純真」のイメージを毒で染め上げるとこんな映画になりそう。少女にとって妄想とエロチシズムの間に境界はありません。祖母とイタチのねじれた愛の関係も、黒いユーモアに満ちている▼だいたい「イタチ」が憧れの人だったなんて…まあこれはよしとしよう、青年時代はそうだったかもしれぬが、白塗りのドーランの下にしわを数えられるようになった気色の悪いオッサンに、若返りまでしてまだ追いかけたいと祖母に言わせるなど、女は若い美少女にしか値打ちはないと、言っているのと同じね。アタマにくる「ファンタジー」ね(笑)。しかしながら、ヴァレリアを除いた登場者は、何かが完全欠落したアブノーマルな美を放散していて、イタチがイヤリングをつけてはりつけになっているのを見て意味もなく爆笑した。祖母、並びに兄貴とヴァレリアの落とし前のつけ方だったのでしょうか。教会で少女たちが「処女の訓話」を牧師から聞かされるシーンがあります。「処女とは何だろう。雪のように白い肌、何者にも裂かれぬザクロの実、固く閉じたバラのつぼみ」。このバラのつぼみですが、オーソン・ウェルズの「市民ケーン」のラストにある謎の言葉へのオマージュです。本作では謎でもヘチマでもなく、妄想の国の危険な淫夢ですが。