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特集「ベリッシマ(美少女)」

2019年5月14日

特集「ベリッシマ(美少女)」⑤
プリティ・ベビー(1978年 社会派映画)

監督 ルイ・マル

出演 ブルック・シールズ/スーザン・サランドン/キース・キャラダイン

シネマ365日 No.2844

晴朗な娼婦 

特集「ベリッシマ(美少女)」

 ブルック・シールズ衝撃のデビュー作と今に伝えられる。娼館で育つ12歳の少女バイオレットを演じた話題作。ルイ・マルの作風は長編監督デビュー作「死刑台のエレベーター」から一貫して変わらない。一言でいえば晴朗なのです。彼、育ちのいいせいか、人間を見る目が素直でひねくれていないのね。「死刑台…」だって犯罪映画と言うより、ドジ踏んだ男とジレジレして待つ女のドキュメントというほうがアタリだ。「恋人たち」なんか、何を言いたいのか、この映画は。いい家の女主人が一夜にして、たまたま家に泊め、庭で月光を一緒に浴びた男と駆け落ちする。二人の睦言の一部始終が延々と繰り広げられるのです。「何が言いたいのか」という茫漠感は、ルイ・マルの映画によくついてまわり、本作にしても、あまりに晴朗な娼館の描き方が、女郎イジメや少女売春や、鉄板社会派になるテーマを「何が言いたいネン」と呟きたくなるほど、淡々と、贅沢な絵画を見るような、美しい映像で語ります▼バイオレットは生まれた時から娼婦たちの日常にいる。母親ハティ(スーザン・サランドン)が泊まりの客といる部屋に朝方入って行き、ハティが手まねで(出てお行き)と合図する。母は先だって男の子ウィルを出産したばかりだ。ベロック(キース・キャラダイン)という写真家が、娼婦たちを撮らせて欲しいと女主人マダム・ネルに頼み、出入りするようになる。彼の撮るベロックがまた、透明な光を湛え美しい。バイオレットは娼館の庭を縄跳びしたり、人形を抱いて母親の真似をしたり…やがて水揚げの日が来て、処女に群がる男たちがセリに熱狂する。バイオレットは400ドルの高値で落札。二階に上がる。階下で待つ女たちはうつむきがちで、空気は湿っぽい。男が帰った。ドドドと女たちは二階に駆け上がる。部屋に踏み込むと、バイオレットは男が舐めまわした唇のルージュはベトベト。ガバとはね起き(イェイ!)。女たちは少女を取り囲み「あんた、いい稼ぎ手になるよ」祝福するのだ。そう、この映画に不幸はない。感傷もない。女たちは「いつかここを出ていきたいね」と時に言いながらも、それが重い苦しみやストレスであるようには見えない。彼女らは泰然自若と受容する。ハティが常連客と結婚することになり、セントルイスに去った。「いつか迎えに来るからね」と言ったものの、同僚たちは信じない。バイオレットも悲しむ様子もなかった。ただ女たちが「お前は捨てられた」と言った時は「ママは手紙もくれた。ハガキもくれた」と母親をかばう。でもそれは差出人の住所の書いていない便りだった▼街の娼館は高まる廃止運動の煽りで軒並み廃業に追い込まれる。ベロックはバイオレットに結婚を申し込み、残っているわずかな娼婦たちが参列して式を挙げた。そこへ母親が戻ってきたのだ。上品な奥様となり、大きくなったウィルの手を引き。夫は「バイオレットを学校に行かせる」と決め、連れ帰ろうとする。ベロックは「彼女なしで生きていけない」そして「お前は僕の妻なのだ」と諭すのだが、母親が迎えに来てくれた嬉しさで、バイオレットは「一緒に行こう」と朗らかにベロックに言う。いけるはずないだろ! 呆然と見送るベロック。これでよかったのだと思えというのは、あまりにもベロックに酷だろう。バイオレットは彼にとって聖少女だった。彼は幸福だった。あまりにも儚く消えた彼の夢は、あまりにも、とりとめなく生きてきたバイオレットの短く、でも決定的な人生に重なる。社会にも道徳にも、煩わされることのなかったバイオレットがあまりにも澄み切って、ヘドモド注釈を付けさせない。これがルイ・マルだ。ベロックよ、彼女らのように運命を受け入れ、この晴朗な娼婦を見送ってあげよう。