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特集「ベリッシマ(美少女)」

2019年5月15日

特集「ベリッシマ(美少女)」⑥
ブラック・ムーン(1990年 ファンタジー映画)

監督 ルイ・マル

出演 キャスリン・ハリソン/テレーゼ・ギーゼ

シネマ365日 No.2845

お待ちを、一角獣さま 

特集「ベリッシマ(美少女)」

 順序が逆になりましたね。ルイ・マル監督は先に「プリティ・ベビー」を、続いて本作を撮っています。パリに耐え難くなってとにかく他の場所で撮りたかった、と言ってアメリカに移住する直前の映画が本作です。パリの人ゴミと騒音にウンザリしたらしく、かなりのウツ症状だったに違いない。「現実的な論理性と整合性を欠き、不安感と不確実性を反映している」と自分で言っています。「不思議の国のアリス」の大胆な解釈とジャケ写にありますが、下敷きにしたのはわかりますが、こうまで支離滅裂だと、解釈なんてぶっ飛んでいるね。「アリス」よりブリューゲルの絵の混乱と淫猥に近い。「農民の婚礼の踊り」とか「反逆天使の堕落」「謝肉祭と四旬節の喧騒」とかね。アメリカの第一作が「プリティ・ベビー」でした。堅牢かつ緊密な構成の快作であった「プリティ…」を準備するものが、当然本作にはあったはずですが、共通項は「美少女」くらいしか、思い当たらんわ(笑)▼ルイ・マルいうには、本作は「テレーゼ・ギーゼルに対する崇拝から始まった」。彼女は劇中、ベッドに寝たきりの正体不明の老女で、死んだと思えば生き返り、無線機で闖入してきた少女リリー(キャスリン・ハリソン)について独り言を喋りまくる。リリーは少女兵士で脱走し、森の中の一軒家(ロケしたのはルイ・マルの別荘)に紛れ込んだ。そこでは15人の素っ裸の少年少女がブタを追いかけ、羊の群れの中に男の首吊り死体がぶら下がり、であった姉弟はリリーが話しかけても素通りする。ずんぐりした一角獣が現れ人間の言葉を喋り「老婆は存在しないから気にしないで。ああ、こんなところヤンなっちゃった。165年後に帰ろう」スタスタ消えたかと思うとどこからか再登場。リリーがベッドで眠ると蛇が滑ってきて太ももの間に潜っていく。いやらしい蛇ね。他に滑り込む場所いっぱいあるでしょ▼老婆は姉弟の母だ。姉は乳首を消毒して母親に含ませる。ピチャピチャと音を立ててテレーゼ・ギーゼは吸うのだ。彼女の夢を見たのがこの映画を撮る直接のきっかけらしい。ルイ・マルがベッドのそばに立って、眠っているテレーゼを見ているだけなのだけど、そのような夢を何度か見たのですって。全然エロチックじゃないけど、すごいインパクトを彼は感じたわけね。無理ない。彼女は主に舞台で活動したドイツの大女優。トーマス・マンの娘エーリカ・マンと一時行動を共にした。本作中でも彼女は独特のオーラをムンムン発揮しています。ルイ・マルの手練手管に引き摺り回されたあげく、再び一角獣登場。リリーはそれまでの生意気な、突っかかる態度はなくなり、慎ましく「お待ちを」と声をかけ、おもむろにブラウスのボタンと外し、乳首を消毒、一角獣にオッパイを吸わせるンかい…ここでエンド。リリーを演じるキャスリン・ハリソンがイギリスの名優、レックス・ハリソンの孫。ジャック・ドゥミの「ハメルンの笛吹き」でデビュー、ピーター・イェーツの「ドレッサー」などに出演しました▼同じ子役のデビューでもジョディ・フォスターの「タクシー・ドライバー」や、ナタリー・ポートマンの「レオン」に比べると、物語性の欠如で損しています。だって、後から「あ、あの映画?」と言って思い出すのは、リリーよりも「あの気色の悪いおばあちゃん」だと思えるから。本作で深く反省したのか、ルイ・マルは、次作「プリティ・ベビー」で映画史に残る美少女を撮って失地挽回しています。