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特集「ベリッシマ(美少女)」

2019年5月18日

特集「ベリッシマ(美少女)」⑨
ベリッシマ(1981年 ヒューマン映画)

監督 ルキノ・ヴィスコンティ

出演 アンナ・マニャーニ

シネマ365日 No.2848

テーマはマニャーニ

特集「ベリッシマ(美少女)」

「ベリッシマ(美少女)」特集のトリはズバリ「ベリッシマ」。ルキノ・ヴィスコンティの初期の傑作です。主演にアンナ・マニャーニを得て、大海の魚のごとく快泳させています。これまでの作品(「郵便配達は二度ベルを鳴らす」など)とは随分異なる作品では、という記者の質問に答え「前からマニャーニで一本撮りたいと考えていた」と打ち明け、「この映画の真のテーマなマニャーニだ」とまで断言しました。6〜8歳の子役を募集する映画会社のコンテストに、娘を受けさせる母親マッダレーナがアンナ・マニャーニ。彼女は夫の給料では足りず、パートの看護師をして在宅の患者に注射を打ちに回っている。受けられなかった教育を娘に受けさせたい、自分と同じお金の苦労もさせたくない、この子の可愛いさなら採用されるはずだ。母親の愛情と信念は狂奔します▼ヴィスコンティは、映画界という自分とは無縁な環境に投げ込まれた母親の反応を、「一人の女、一人の現代的な母親の肖像を描きたかった」と言い、マニャーニのダイナミックな演技を「彼女の才能と個性を存分に発揮してくれた」と満足を表していました。マッダレーナとは一見、威勢のいい姉御肌の女性に見えますが(事実そうでもありますが)ヴィスコンティのヒロインが往々にしてそうであるように、内面は複雑で、洗練された感性の持ち主です。マッダレーナとは、審査に有利と聞けば娘にバレエを習わせ、教師が娘にバーばかりもたせて踊らせないとねじ込み、ドレスを新調し、元女優に演技の指導をたのみ、撮影所の走り使いのような青年になけなしの貯金をはたいて賄賂をつかませる。哀れなほど激しく、妄念にとりつかれた母親ですが誇り高く堂々としています。夫が家庭を顧みず走り回っている妻に文句を言うと「私のような哀れな境遇にしたくない、娘を幸せにするためにやっているのよ」と噛みつく。機関銃のように打ち返す夫婦喧嘩はアパートでも有名で、物見高い住人が入り混じり喧騒の渦を巻き起こします▼娘が最終審査に残り監督、製作者、主たるメンバーが審査のフィルムを見ることになった。強引に映写室に入り込んだマッダレーナは、肝心のシーンで緊張のあまり泣き出した娘をゲラゲラ笑うスタッフに怒り心頭に発する。「何を笑うの。あんなに一生懸命やっているのに」元女優だった編集者は錯乱する母親に「本気で女優になるつもりならよほどの覚悟が必要よ。夢破れ失敗した人を大勢見てきた。私だってちやほやされて挙句の果がお払い箱よ」。晴れやかな世界の非情な現実を母親は垣間見る。娘の成功は幸せのためだと信じてきたが…一日中やれ髪のセットだ、衣装の着替えだと引き摺り回され、疲れ果てた娘ととぼとぼと帰路をたどり、人通りの絶えた夜のベンチに座る。幸せとはこの娘がいることだけで充分ではないのか。それまでのけたたましい演技が嘘のように、黙って涙を流すアンナ・マニャーニ。家に戻ると撮影所から「お嬢ちゃんの採用が決まった。即金で25万リラ、契約書にサインすればさらに25万リラ」と、担当者が立て板にみずのごとく述べ立てる。マッダレーナはきっぱり「大事な娘よ、貸せないわ。笑い者になるのはまっぴらよ。帰って」夫は「頑固な女でね」と妻をかばう。関係者はお手上げで引き返した。妻は…ベッドで泣いているのだ。「私をぶって。気のすむまで」。夫は傍に腰掛け、むくんだ足から靴を脱がし、さすってやる。「お前は変わった女だな」マッダレーナは夫に抱きつき「家は私が稼いで買うわ。死んだ気になって働くわ。ローマ中の人を糖尿病にして注射をうちまくる。心配しないで」どこまでも「攻め」である。はたとテレビに耳をすませ「聞いて。バート・ランカスターよ」「お前は変わり身が早いな」。両親の静かな会話に、ベッドのベリッシマはすやすやと眠っている。