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特集「最高のビッチ」

2019年6月2日

特集「最高のビッチ8」② アリソン・ジャネイ2
アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル(下)(2018年 伝記映画)

監督 クレイグ・ガレスビー

出演 マーゴット・ロビー/アリソン・ジャネイ

シネマ365日 No.2863

孤高・孤絶・不屈 

特集「最高のビッチ8」

トーニャの最大の壁は「ジャッジ」だった。「私は審査員に嫌われているからね」。審査員席の前まで滑りトーニャは詰問する。「どうすればいいわけ? 私は毎日朝5時から練習している。私に正当な点数をくれる気はないの?」「他の選手も頑張っています」「私のほうがうまいわ」「芸術面も大事なのです」「言っとくけど、衣装代5000ドルくれれば私だって“芸術面”を満足させられるわよ。自分でまずい衣装を作ったりしない」「自分を過大評価しすぎです。他のスポーツに変われば?」。コーチが「あんなこと言って得点が上がる?」。トーニャが一番苦手な「良識」を説くコーチはクビになった。彼女はのちに復帰し二人三脚を再開するが、こう解説している「トリプルアクセルに挑戦する大変さをみなわかっていない。バックで滑って前を向いて、左脚で踏み切って、軽々と空中で3回転半回る。そして左脚のアウトエッジで後ろ向きに着氷する。3回転に加わった半回転でトーニャはフィギュアのチャールズ・バークレー(殿堂入りしたバスケ選手)になった。彼女の技術はずば抜けていた」▼アメリカ人女性でトリプルアクセルをした選手は一人もいなかった。1994年全米選手権。スケート協会は「クズのトーニャ」にはできないと思っている。「トーニャ、お母様に見せてあげて」とコーチ。母親の励まし方は違った。彼女は男に金をつかませ、リンク入り寸前のトーニャに「下手くそ」と罵らせたのだ。「怒れば力を発揮するタイプ」と知っているラヴォナの根回しだった。アナウンスが始まる。「オレゴン州出身20歳。現在世界2位。パワーとスピード。運動能力は驚異的です。注目はトリプルアクセルを跳ぶか否か」。トーニャはトリプルアクセルの成功が人生でいちばん嬉しかったとのちに言う。「世界一」の誉れはトーニャを別人に変えた。夫(ジェフと結婚した)には二言目に「私は世界一なのよ」を投げつけ、言葉のない男は妻を殴った。どうしてこうなるかは説明をつけにくいが、トーニャの周りにはソーシャル・アウトサイダーが集まる。ジェフはジェフでトーニャの分身だった▼母と娘の会話を聞こう。娘「ママは私が天才だと洗脳した。おかげで私の人生メチャクチャよ。私が子供だったころ愛してくれた?」母「相変わらずヤワだね。情けない子だね。私はお菓子でなくメダルをお前にやったんだ。娘に嫌われると知っていて犠牲になったのだよ。私も自分みたいなママが欲しかったよ」「辛かったわ。ママは怪物よ」。母親に抱かれたい子供のころに母親の甘い経験がない。トラウマになっても仕方ないと思える。しかしながら、全知全能を注げる目標を持ったことほど濃い人生はあったろうか。おそらく母親は人が生涯の最後に満足できるのは「存分に生きた実感」であり、ラヴォナが娘のために選んだのはそれだったのではないか▼襲撃事件にトーニャが関係していたとして彼女はスケート界を追放された。ショーのエキジビションに、ボクサーに転身したりした。彼女が法廷で判決を聞いた時「私は教育を受けていません。練習のため高校を中退しました。スケートができなければただの凡人です。スケートを奪われるのは終身刑と同じです。服役してもいいからスケートを続けたい」でもできなかった。ジェフは離婚後三度目の結婚で息子を得た。トーニャはのちに造園業につき、7歳の子供と幸福に暮らし「自分がいい母親だと世間に知ってほしい」とインタビューで語っている。ラヴォナは「娘とはあっていないし、どうでもいい」▼トーニャが母親と絶縁したのは、襲撃事件でトーニャのコメントを取りたがったマスコミが、母親を説得し、ラヴォナがテープをポケットに隠して娘に会いに来たことだ。母親はやさしく問いかけた「私はお前の味方だよ。それを言いたくて来たのさ。ねえトーニャ。襲撃のこと知っていたのかい。ママに話して」…嘘っぱちのママ。運命のねじれた糸はどこまで人を巻き込み彼らの人生をもつれさせたことか。それぞれが落ち着くべき場所に落ち着いたと言えようが、最後までとんがっていたのがラヴォナ。点滴を受けながら取材に応じた。死ぬまで孤高・孤絶・不屈のスタイルは変えない。アリソン・ジャネイは本作の怪演によってアカデミー助演女優賞受賞。充分にふさわしかったです。