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特集「最高のビッチ」

2019年6月4日

特集「最高のビッチ8」④ シモーヌ・シニョレ2 
嘆きのテレーズ(下)(1954年 恋愛映画)

監督 マルセル・カルネ

出演 シモーヌ・シニョレ/ラフ・バローネ/ローラン・ルザッフル

シネマ365日 No.2865

冷たい詩 

特集「最高のビッチ8」

ストーリーはありふれています。病弱なマザコン男、カミーユと結婚させられたテレーズは冷たい姑と傲慢な夫の間で暗い毎日を送っている。そこへトラック運転手ローラン(ラフ・バローネ)が現れた。彼は一目で影を帯びたテレーズの美しさに惹かれる。単刀直入だ。「君に会うのは二度目だ。男と女の出会いにはこれで充分だ。俺の財産はトラック一台。町から町へさすらうひとりぼっちの人生だ。あんたにはカミーユがいる。あれでも夫だ。俺と一緒に逃げよう」「私を奪って泥棒猫みたいに逃げるの?」「今の生活を断ち切るんだ」「大した人ね。強くて自由で自分中心ときている」「男を愛して信じ切れば駆け落ちは簡単だ」「簡単?」テレーズは両親が死んだ後叔母(現姑)の世話になった。「恩は裏切れないわ」「看護師代わりに嫁にされたのだ。虚しい人生だ。ダンスは?」「一度もない。裁縫と看病とお店(生地屋)の経理だけの生活よ」「死人のような生活だ」▼二人は密会するようになる。感づいた夫は脅したり哀願したり、テレーズを離すまいと「親戚の家に監禁する。夫の力を見せつけてやる」。で、リヨンから汽車に乗る。トラックであとを追ったローランは合流し、夫と揉み合ううちに汽車から突き落としてしまう。コンパートメントには相客がいた。兵役を終えた水兵(ローラン・ルザッフル)だ。彼が後半から重みを増す。姑は息子の死を知って卒倒。耳は聞こえ目も見えるが全身不随で寝たきり。目が鋭く(お前が殺ったのだろ)と訴える。警察での尋問にテレーズは口を割らなかった。判事は事故と認め、鉄道会社は賠償金を払って示談とした。全て解決したと安堵したテレーズとローランの元に水兵が現れる。二人にとっては悪夢だ。自転車屋を開業したいから元手50万フランを出せという水兵に、ローランとテレーズは得た賠償金40万フランをそっくり渡す。涙ぐんで喜び、二度と姿を見せないと誓った水兵は店を出たとたん、トラックにはねられ下敷きになって死ぬ。息をひきとる間際「手紙だ、手紙が」とつぶやくがテレーズには意味がわからない▼自分が殺された時のために、水兵はホテルのメイドに「5時になっても俺が帰ってこないときは、これをポストに入れてくれ」と一通の封筒を預けていた。宛先は予審判事殿。内容は目撃した車中の一部始終だ。5時。メイドは約束通り投函する。水兵のローラン・ルザッフルがいいですよ。ぞっとするようないやらしさです。彼が窓の下にオートバイを止めただけで身の毛がよだつ。シニョレとは「肉体の冠」で共演。マルセル・カルネ監督とは「マンハッタンの哀愁」で組んでいる名脇役。ハンサムなのだけどヌルッとした爬虫類のような目つき、細身の体のしなり。剛腕のラフ・バローネと正反対の持ち味で不幸を振りまく存在ですが、「ありがとう」と金を押しいただき、虫の息の下から手紙の存在を知らせようとするなど、恵まれなかった青春を取り戻そうとする、戦争の生き残りを好演しました。誰も幸福になれない映画に、冷たい詩のような美しさを監督は感じさせます。