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特集「最高のビッチ」

2019年6月5日

特集「最高のビッチ8」⑤ シモーヌ・シニョレ3 
デデという娼婦(1953年 恋愛映画)

監督 イヴ・アレグレ

出演 シモーヌ・シニョレ/ベルナール・ブリエ/マルセロ・パリエロ

シネマ365日 No.2866

凝視する眼 

特集「最高のビッチ8」

嘆きのテレーズ」に続くシモーヌ・シニョレの代表作。ベルギーからフランスに流れてきたデデ(シモーヌ・シニョレ)は、ヒモのマルコに付きまとわれ娼館ビッグ・ムーンで働いている。朝の散歩から帰ってきた。娼婦たちが朝食をとっている。オーナーのルネ(ベルナール・ブリエ)が料理を温め直してやれと言い、どこに行っていたとしつこく訊くマルコを体良く追い払ってやる。ルネは気立てのいいデデが気に入っている。娼婦たちもデデが好きで彼女を食い物にするマルコが大嫌い。それとなくデデを庇うのがマルコの気にくわない。彼は平気で暴力を振るう男だ。冒頭の霧の波止場アントワープにデデが佇み、スナックの袋に指を突っ込みながら、ぽりぽり食べているファーストシーンがいい。どこに行くあてもない、寂しい、でも気性のしっかりした女だと一目でわかる、そんなふうにシニョレは演じる▼フランテェスコ(マルセロ・パリエロ)が店に来たとき、今朝方入港した貨物船の甲板に立って、自分と目があった男だとすぐわかった。フランテェスコはイタリア人。ルネの友人で貨物船の船長をしながら武器の密輸をしている。ルネとの間には長年の友情があり、どっちも信頼している。デデとフランテェスコは一夜を共にし、どっちも離れられない思いにかられる。一緒にここを離れようと約束する。ルネは二人の仲を見てとり「いい男がいるのなら店を辞めてもかまわない」とデデを祝福する。おさまらないのはクズ男マルコだ。借金で首が回らない、稼ぎはない、裏社会のボスの取り立ては厳しい、挙句デデに店から金を借りろ、ルネはお前の言うことをきくはずだ、返済はお前が体で返せ…店の女たちは口にこそ出さないが(早く死んでしまえ)と、腹に据えかねる目でマルコを、かわいそうな目でデデを見る。ルネはマルコをクビにして店を追い出す。「1分やる。荷物をまとめろ。あと30秒だ。10秒だ。時間切れだ」ルネは力任せに泣きつく男を店の外に放り出す▼マルコがただ引き下がるはずがない。後半のストーリーはマルコにかかってきます。出航は夜の3時。フランテェスコから船を出す、港に来てくれと電話がかかった。身の回りのものをトランクに詰め込んだデデは仲のいい娼婦と別れを惜しむ。ルネが港へ送っていく。霧の波止場でデデを待っていたフランテェスコをつけてきたマルコが背後から銃撃。男は死ぬ。ここからだ。シモーヌ・シニョレの独壇場は。銃声を聞きつけて集まった水夫たちに遺体を「船に運んで」。ルネに「探すわ」と一言。マルコの行きそうな酒場を回る。どこにもいない。「高飛びするなら駅にいるはずだ。始発まで1時間ある」ルネは車を飛ばす。駅にいた。ルネはコートのポケットから拳銃を突きつけ波止場に連れ出す。殴り倒して路上にのびたマルコを車の中からルネとデデが見ている。轢き殺すのだ。「ゆっくりと」とデデ。苦しみながら死ね、そう言いたいのだろう。運転席のルネに手を貸しマルコから車輪が逸れないようにハンドルを固定する。冷たく座ったデデの目はまばたきもしない。「肉体の冠」で、吊るされる恋人の死刑執行を、窓から凝視したあの眼だ。悲しみという悲しみをさらいあげ、感情に映えるものはもう何も残っていない眼…▼ルネのベルナール・ブリエがいい。ずんぐりしたハゲ頭の冴えない風体なのに、物語が進むうちこの男の公平さ、娼婦たちへの思いやり…女たちと揃って食べる朝食、同じテーブルをみんなで囲み、遅れてきたデデに料理を温め直してやるやさしさ、唾棄すべき男に対する断固とした扱い。密輸していたって何をしていたってかまわない、こんな男こそ女を惚れさせる男なのだと思わせる。「女たちのテーブル」でイタリア映画界の最高賞、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞助演男優賞受賞。1989年73歳で没。