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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2019年6月26日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督3」⑥ 
はじめてのおもてなし(2018年 コメディ映画)

監督 サイモン・バーホーヘン

出演 センタ・バーガー/エリック・カボンゴ

シネマ365日 No.2887

誰にでも祖国がある 

特集「頑張るドイツ映画と女性監督3」

メルケル首相が100万人の難民受け入れを表明した移民大国ドイツ。バイエルン州の州都ミュンヘンの裕福なハートマン家では、主婦アンゲリカ(センタ・バーガー)がアルジェリアの青年ディアロ(リック・カボンゴ)を引き受けると決めた。彼女は元教師。校長も務めて引退。夫リヒャルトは大病院の外科医長。現役にこだわり薄くなった後頭部、目の下のタルミ、メタボの腹をへこまそうと室内マシーンで汗を流し、友人の整形外科医にヒアルロン酸を注入してもらう日々。長男フィリップは仕事中毒で妻に逃げられ、12歳の反抗期の息子バスティに手を焼く。息子は退学寸前の問題児だ。長女ゾフィ。自分探しを繰り返すアラサーの大学生。そこへさらなる混迷を深めるごとく、異文化のディアロが入ってきた▼ジャケ写ではバラバラだった家族がディアロによって心を一つにするとあります。間違いではないですが、ディアロがいわゆるエンジェルの役を果たすというわけではありません。「ありがとう、トニ・エルドマン」もそうでしたが、ドイツのコメディって、どこか理詰めです。といって面白くないわけではない。若返りに血道をあげる夫に妻は冷ややかに「シワを取ろうとタルミをなくそうとあなたは年寄りよ」と現実を突きつける。妻は妻で空きの巣症候群だ。人生に刺激を取り戻そうと、ディアロが来てからはドイツ語を教え、ゲーテの詩を読み聞かせ庭仕事を手伝わせ、買い物のお供をさせて活気づく。ディアロの身の上は厳しい。ドローンによる警察の監視。移民嫌いの急先鋒である隣家の主婦。テロ防止と称し玄関でデモを張るストーカー男。ディアロは家族や生い立ちを一切語らず、週に1回ジョギング・クラブのメンバーと公園を走る。ラッパーを目指すバスティは仲間と貯めたお金で学校にストリッパーを呼び、自作を収録する。それがバレ、フィリップは呼び出しを食って最後通牒を突きつけられる。父親は病院で手術の判断ミスを研修医に指摘され、逆上する▼ディアロは「自由の国ドイツ」の自由に戸惑う。娘が父親に食ってかかると「呶鳴っちゃダメ。老人なのだから」さらに「なぜ子供がいないの。トシなのに」とイタイことを言う。イヤミでも皮肉でもなく、彼は自分の国の文化を「老人を敬い、結婚して子供を産み幸福になる」を信じているからだ。ディアロはバスティのクラスで自分のことを話す。「ある日テロ集団の襲撃を受けた。彼らは兵士にするため子供を誘拐する。兄二人が捕まって殺された。アフリカ全土にテロが広がり、学校を襲い教室を焼き、子供を監禁し、勉強しているという理由で銃殺した。彼らのモットーは、本は罪・教育は罪だ」砂漠を歩き難民ボートにたどり着いてディアロはミュンヘンに来た。苛烈な体験に子供たちは沈黙する。ディアロの亡命申請は却下された。アンゲリカの同僚だった元教師のハイケが、ディアロの歓迎パーティと称し、サーカスの団員と無許可のシマウマを庭に連れ込み乱痴気騒ぎ。隣家の移民嫌いが通報し警察沙汰になったことが原因らしい。移民局の責任者は異議申し立て・最審査を申請した。そこでディアロの弁護士を買って出たのが兄貴のフィリップだ。「ディアロは息子の親友で、僕ら一家の友人であり信頼できる責任ある男です」彼は神経障害による急性燃え尽き症候群で医師からケータイを奪われ、強制入院さえられたが、妹のケータイを使いエスケープ。職場に駆けつけたが足を引っ張り合う競争社会に幻滅した。仕事一辺倒を反省し息子との時間をとるため会社を辞め、息子が作ったデモテープを初めて聴いた。裁判の結果ディアロは亡命を認められた。父親は能力の退化を素直に認めリタイアを決心した。娘は研修医と結婚することに。ディアロにもガールフレンドができそうだ。家族映画とも言えるが、寛容を掲げたドイツでも、移民に対する市民感情には差別や偏見が渦巻いていることがわかる。誰にでも祖国がある。どんな祖国であろうと自らの血と肉になった祖国が。物静かなディアロが頑として「自由」に流されず、祖国の文化を曲げないところがいい。センタ・バーガーは「悪魔のようなあなた」でアラン・ドロンと、「ダンディー少佐」でチャールトン・ヘストンと、「さらばベルリンの灯」でジョージ・シーガル、アレック・ギネスらと共演。サイモン・バーホーヘン監督は息子。

 

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