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特集「異形の美術館」

2019年7月2日

特集「異形の美術館」②
ブラッディ ドクター・ローレンスの悲劇(1974年 劇場未公開)

監督 フレディ・フランシス

出演 ピーター・カッシング/ジョン・ハート

シネマ365日 No.2893

端正というものの気配

特集「異形の美術館」

金持ちの息子や娘がパーティで肝試しのレースをする。ハンドルを回してエンジンをかけるクラシック・カーに、1台にはダフネとビリーが、もう1台にアンジェラとジェフリー。ダフネが運転しむちゃくちゃ飛ばし、ガス欠でエンコ。ダフネの一声でビリーはポリタン持ってガソリンを見つけに行く。ダフネは霧の中に見えた鉄柵の門の屋敷に入る。「ここは私の屋敷だが」と声がして主人ローレンスが登場。もちろんピーター・カッシングです。訳を聞き「少し休んでいけばいい。この霧はなかなか晴れない」。態度物腰が紳士である。ダフネは部屋にある女性の写真に目を留める。「妻です。亡くなった」。写真は実際にカッシングの妻で、3年前に彼は妻を亡くしていました。カッシングの小道具の凝りようはかなりフェチだったようです▼屋敷には秘密がある。インド人のメイド。アーヤに庭男のトム(ジョン・ハート)。ローレンスは牧師で数年インドに住んでいたが、偏執的な邪悪な男が家族を堕落させた、妻はそれで自殺した、というから多分暴行されたのでしょう。牧師は小さな部屋に閉じこもり「神よ、いつお許しを?」と祈っている時がある。ダフネが暇乞いしようとすると、暖かい暖炉の部屋を用意した、と仕切りにとどまらせようとする。彼は細い長い指でバイオリンを弾く。家具調度はインドの彫像、置物、絵画は歴代屋敷の主の肖像画、長い階段があり、二階には幾つも部屋がありそうだが、アーヤといい、トムといい、秘密を隠している態度素振りがありあり。言い忘れたがビリーはとっくにトムに殺され車ごと崖下に転落、放置された。ダフネは部屋で眠った。トムとアーヤは階段の下で何かを待っているふうだ。やがて部屋の一つのドアが開き、サンダルを履いた血だらけの裸足の足が階段を降りてくる。大きな太いナイフを下げダフネの部屋に。ダフネはグサグサに刺され、死体は台所でアーヤが解体した。牧師は祈りの部屋で「神よ、神よ」と嘆いている▼もう1台の車で出発したアンジェラとジェフリーは行方不明になったダフネとビリーを探しながら屋敷を見つける。ローレンスは奥歯に物が挟まったような遠回しな言い方で問題をはぐらかし、ジェフリーが二階に上がろうとする。それというのも道で出会った庭番のトムが「屋敷には入るな、人肉を食う化け物がいて一度入れば二度と出てきたやつはいない」などといったからだ。ローレンスは顔色を変え「やめろ、息子がいるんだ。私に任せてくれ」とジェフリーを制止するが陸軍士官の彼はズンズンと部屋に入り、部屋の主から頭にナイフを突き立てられ血しぶきをあげて死ぬ。元祖「13日の金曜日」です。姿を現した息子が、いわゆる「グール」(アラブ人の伝承に登場する人肉鬼)です。息子はアンジェラを襲うが父ローレンスが射殺する。「もっと早くこうすべきだったが、できなかった」と彼は嘆き、自らも頭を撃ち抜くインドで何があったのか、なぜ息子がグールになったのか、曰く因縁はさっぱりわかりません。ストーリーはさっさと進むのでアレヨアレヨと思う間に階段の血だらけの裸足が現れ一気に結末になだれ込む▼それがまたカッシング先生(なぜかこう呼んでしまう)の風貌、雰囲気、持ち味にぴったりで、彼はくどくど息子の悲劇を愚痴らない。どうしてこうなったかも説明しない。ただ耐える。祈る。神の許しを乞う。70年代に入ると刺激の強いハリウッドのホラーに押され、ハマーのクラシックなホラーは衰退していきました。カッシングは71年に愛妻ヘレンを亡くし、体調も崩し脇役に回ることが多くなったが、それでも仕事をこなした。哀れな老人役も臆せず演じ、マスター・オブ・ホラーの名声にふさわしい名優ぶりを発揮しました。本作でカッシングは58歳。容貌には衰えが見え、痩せて頬骨が尖り、額のシワは深い。しかしながら彼が登場するシーンはそれだけで端正だ。まるで鞘を払った日本刀のように光を吸収する。こういう俳優が放つ「端正の気配」のようなものこそ、有象無象と一線を画する異形の存在と呼びたい。

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