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特集「異形の美術館」

2019年7月4日

特集「異形の美術館」④
王女テラの棺(1971年 劇場未公開)

監督 セス・ホルト/マイケル・カレラス

出演 ヴァレリー・レオン

シネマ365日 No.2895

凡庸にしてしまった理由

特集「異形の美術館」

考古学者のパパから娘マーガレット(ヴァレリー・レオン)は誕生日祝いに指輪をプレゼントされた。ゆで卵を縦ふたつに切ったほどの大きさだ。パパはいつもはめているといいというが、こんなどデカイ指輪はめて家事なんてできませんよ。おかしな映画ね、と思ったのが運の尽き。家の地下室はパパ以外出入り禁止だ。マーガレットは聞き分けのいい娘だから研究の邪魔になることはしない。母親はマーガレットを産み落として亡くなった。数年前パパを団長とするエジプトのミイラ発掘調査団は、とある洞窟で古代の女官テラの棺を発見した。開けると身体中に宝石を付け、クレオパトラみたいな美女が埋葬されている。手首だけが切り落とされ、しかも切り口は赤々と血が滴っている。冒頭に切られた手首がテラの元に戻ろうと、砂漠をサササと走るシーンがある。まあ「アダムス・ファミリー」の「ハンド」は本作へのオマージュだったの▼テラのナレーションによると「私テラは闇の女帝、古代エジプトの女司祭。かつて生きていた。この退屈な何世紀もの間、心は休まることがなかった。私の魂は無限の闇をさまよい、その間、私の不死の体は待っていた」要は復活する日を待っていたってことね。そのために調査団を「この墓に導き彼らを私の最も神聖な遺体の監視者とした。蘇るのはもう直ぐだ」…何百年もテラは包帯で防腐処理も施されず妖艶な姿のまま棺に入り、発見したマーガレットのパパ達は遺体をロンドンに運んで地下室に安置し、さらなる研究を進めようとしている、こと自体が荒唐無稽だが本作は見事に無視。元調査団のメンバーは一人、二人と奇怪な死に方をする。テラが復活するには彼女を守る守護獣の彫刻、コブラ、ジャッカル、黒猫が必要だそうだ。マーガレットはテラが復活のため必要な憑依する肉体で、卵指輪は神を招くシンボルだろう。ところがこの指輪、脚本中に置き忘れられたみたいでさっぱり出番がない。テラは棺に横たわったきりもっぱら念力でコブラ、ジャッカル、黒猫の持ち主を発狂、自殺させる、すると不思議、いつの間にか彫刻はテラの棺の枕元に鎮座するのだ。一つ一つの彫刻がアップになるシーンでは、黒猫の目にはまった金色の画鋲が安物で、パクパク隙間があったわよ▼マーガレットはかわいそうに父親も恋人もテラの呪いで殺され、家は火事で焼かれ、病院に搬送され、目だけ出して包帯でぐるぐる巻き。医師が命は取りとめるというが、包帯の隙間からキラキラ光る目はまさしくテラ、だということにならなければ、この映画は何のためにあったわけ? ハマー・フィルム・プロダクションの伝統により、ここでバッサリとエンド。しょうがないなあ。調査団のしたことは墓場荒らし同様だし、文化財保護法もヘチマもない。「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」も、古代の悪の王女復活劇だったけど、悪役のソフィア・ブテラが邪悪のアマネットを好演。続く「アトミック・ブロンド」で、シャーリーズ・セロンと渡り合うベッドシーンをケレン味なくやってのけた。本作ではヴァレリー・イオンがマーガレットとテラの二役です。背の高いエキゾチックな容貌で、割といい線いっているのに、テラはミイラの隠居みたいにチンと棺に収まっているだけ、マーガレットは謎解きにもアクションにも参加せず、殺しの現場に顔を出してびっくりするだけ。「テラは人に善と悪を超えさせる存在であり、彼女の時代の教理と掟の手が届かないところにいる、生を超え、死を超える」というファムファタールはお呼びではないのだ。「美しいもの、良いもの、神聖なものだけを人は得るわけではない、相反するものがないとそれらは価値がない」という劇中のモノローグは本作の核だ。これが映像で具体化されればかなりの異形の出現になったでしょうに。つまるところ「善でもない悪でもない」半端なヒロインにしてしまったのが、映画を限りなく凡庸にしている。

 

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