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特集「ベストコレクション」

2019年7月10日

特集「真夏の星の交響曲 7月のベストコレクション」③
フォー・ハンズ(2019年 サイコ・ホラー映画)

監督 オロヴィエ・キーンル

出演 フリーデリーケ・ベヒト/フリーダ=ロヴィーサ・ハーマン

シネマ365日 No.2901

妹の保護 

特集「真夏の星の交響曲 7月のベストコレクション」

事故死した姉の魂が妹の体を乗っ取り、両親を殺した犯人に復讐するというストーリーですが…どうもそうは思えないのです。詳しくいうと、子どもの頃押し込み強盗に父母を殺害された姉妹、姉のジェシカ(フリーデリーケ・ベヒト)とソフィー(フリーダ=ロヴィーサ・ハーマン)は20年後、犯人の男女二人の出所を知る。妹は幼年期のショックを通過したが、姉は心に深い傷を負い、妹が言うには「妄想に取り付かれた」。犯人たちはこの街に姿を現し自分たちを襲うだろう、でもあなたは傷つけさせたりしない、必ず私が守ると姉は誓う。精神科医の分析によれば、姉の妹に対する過度の保護者意識は、幼年期の贖罪が潜在意識にある、彼女は犯人たちを幼稚園で目撃していたが、事件を防げなかった…せいぜい5歳か6歳の幼女が贖罪に苦しむ?▼妹はピアニストの登竜門である大事なオーディションに受かりたい。姉の言うことは戯言に近い。犯人たちは自分たちの顔を目撃していないのだから。でも姉は彼らが出所したというのにピアノどころかと、逆に非難する。駐車場でもみ合っているうち車が来て二人は跳ね飛ばされ、妹は病院で気がつき、姉が死んだことを知る。姉の過干渉からやっと解放される、妹は悲しみより安堵を覚える。それ以後妹は再々記憶が飛び、幼稚園で警官と喧嘩したり、見知らぬ工場に一人いたり、覚えのない行動をとっていた。留守電には姉のメッセージが入っている。妹は怯えてしまう。ボーイフレンドになった看護師とデートしたら、いきなり姉の人格が現れ看護師をボコボコにした。二度目はバーでトイレに行って戻ってくるとすっかり姉人格になり、彼を床に引きずり倒し「今度妹に近寄ったら殺す」と脅しあげた。かなり強いお姉さんである▼復讐なんかどうでもいい妹は、これ以上マインド・ハックはかなわない。鎖や錠前を買ってきて自分自身をベッドに縛り付けるが、姉の人格が現れると鎖も解きロックも外す。処置なしである。結果的に姉は犯人の女を追放し、男を殺す。解離性同一障害の典型的な多重人格構造が、頻出します。最後に男を殺したシーンから一転、そこは葬儀場で「妹さんの事、お悔やみします」と、埋葬をすませた葬儀人が姉に話しかけている。墓標のプレートには「ソフィー・タウバー」とある。あら。死んだのは妹で、お姉さんが生きているのね。じゃ、事故で死んだのは誰よ? それが妹なのよ。看護師がソフィーから「もし私がまともだったら付き合っていた?」と訊かれ「俺も正常じゃない。でなかったら君のタトゥーを見てとっくに引いている」。姉は首から背中に四角い紋様の、かなり目立つタトゥーがあります。看護師が病院で会ったのは、すでに姉だったことになります▼看護師も話を混乱させる役を担うための一人で、目の前に明らかにソフィーと別人のジェシカが現れているのに、同一人物として会話する。それとも彼は解離性同一障害者を扱う経験が豊富で(おや、トイレでソフィーからジェシカに変わったな)程度の認識だったのでしょうか。彼は埋葬をすませたジェシカに「俺は専門家じゃないから、何が正常で異常かわからん。君がどっちの君かもわからん。たまには連絡してくれ」と言って去る。正解かも。ジェシカは家に戻りピアノを弾く。オープニングは妹との連弾(これがフォー・ハンズの意味)でした。ジェシカが弾く側面に鏡があり、そこに映っているのはソフィーだった。幻想的で詩情のある、カフカ的迷宮の映画ですが、姉妹の人格が猫ジャラシみたいに入れ替わるのが煩わしい。でもそれがないと物語にならんし。姉は妹を「守る、守る」と言っていましたが、守るという名で独占したかったのでしょう。彼女が妹の目をふさいで惨劇の現場を見せなかったことで、妹のショックは姉ほどひどくなかったのです。その後20年の、母親代わり、家長代わりの立場は妹ほどノホホンとしたものではない。人に言えない寂しさもあり、精神的な支柱が必要だった。それが復讐であり、妹の保護だったのかもしれません。