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特集「ベストコレクション」

2019年7月11日

特集「真夏の星の交響曲 7月のベストコレクション」④
食べる女(2018年 コメディ映画)

監督 生野慈郎

出演 小泉今日子/鈴木京香/シャーロット・ケイト・フォックス

シネマ365日 No.2902

ものわかりのいい女ばかり

特集「真夏の星の交響曲 7月のベストコレクション」

女がものを食べるのって、とてもセクシーだと思います。行儀がいいとか悪いとか、作法にかなっているとかいないとかではない。唇を閉じてものを噛む、それ自体が瞑想的である。食べ物への敬意と愛情が滲んでいればなお見惚れる。「食べる女」。気取らないタイトルですね。気の合った女たちが4人、小泉今日子扮する古書店「もちの木」の、座敷兼書斎兼リビング兼客間に集まり、食べる喜びを分かち合うファースト・シーンはしみじみ「いいなあ」と思える。美味しいものを「おいしい、おいしい」といい交わしながらいただける、人と料理がマッチングしてこそ人生の至福は味わえる。うまい酒、ビール、ワイン、彼女らは自分で好きな飲み物を自分のグラスに注いでいるところを見ると、遠慮気兼ねのない、極上の一刻であろう▼小泉今日子と、彼女の親友、鈴木京香は世話人みたいな位置付けで、若い女たちの恋愛の相談に乗ったり、セックスの相性を聞いたり、出しゃばりすぎないアドバイスすることもある。「食べる女」の集まる場所は一種の告白と心の避難所でもあるわけです。しかし全体にエピソードが多すぎてまとまりがバラけ、登場人物たちの料理賛歌がやかましい。世間には料理オンチもいるし、美食に限りなく無関心な女もいる。それに女は一人で食べるときに案外安らぎを感じるものだ。家族や友人と一緒の食卓では女はどこかで観察眼が働く。むしろ家人のいない食卓に座し、有り合わせの漬物でもよい、お茶漬けをサラサラかき込む時の開放感は例えようがない。本作ではかろうじてラストに卵かけご飯をかきこむシーンが登場するが、出てくる女たちがみな、笑顔過剰すぎてリアリティがない▼大昔「聡明な女は料理がうまい」という本のおかげで、私など大いに後ろめたい思いがした。料理上手な女性は「聡明である」お墨付きを得ただろうが、自他共に認める料理下手としては「聡明でない」レッテルを貼られたのと同じではないか。本作にも妻が冷凍ピザばかり出すのを理由に離婚を言い出す夫がいた。ムカつくぜ。シャーリーズ・セロンの「タリーと私の秘密の時間」でも、夕食「冷凍ピザか。サイコーだな」という嫌味を言う亭主が登場する。何様だと思っている。ジョディ・フォスターの「パニック・ルーム」では、引っ越したばかりで手料理を作ってやれない母親が、出前の「ピザでごめんね」と娘に謝るシーンがあった。ことほどさように、女はたかが料理で肩身の狭い思いをせねばならんのか。劇中のシャーロット・ケイト・フォックス演じる妻は、夫になじられ、鈴木京香の料理に感銘しボロボロの心を癒され、彼女の店で修業の甲斐あり見事な小皿を夫の前に並べ「自分は自立に目覚めた、私の覚悟がわかった上で共に生きようと思うなら、もう一度来てください」というのだ。家から叩き出されてしかるべきは、浮気亭主のほうだろ▼ものわかりのいい、やさしい女たちばかりであることがドラマの刺激を薄めている。食べるという、最も動物的でダイナミックな行為を取り上げているのに、ヒロインのうち一人くらい、それこそ文化も体制も歯を立てて咬み砕く、反社会的動物であってもいい気がした。

 

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