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特集「ナンセンスは素敵だ」

2019年8月13日

特集「ナンセンスは素敵だ4」⑥
鮮血の処女狩り(1970年 劇場未公開)

監督 ピーター・サスディ

出演 イングリッド・ピット

シネマ365日 No.2935

心に残る女優 

特集「ナンセンスは素敵だ4」

 原題「伯爵夫人ドラキュラ」を、人に言うのもためらうグロテスクな邦題にしたセンスの恐ろしさよ。ヒロイン、エリザベート・バートリ伯爵夫人はハンガリーの貴族。本欄「アイアン・メイデン 血の伯爵夫人」に既出しましたが、領地に善政を敷いた領主であり、語学に堪能、教養の高いまれに見るリーダーであったという側面が一つ、もう一つは血族結婚を繰り返した結果、色情的な変態性向があったというのが一つ。ミスをした侍女を折檻し、血が手についたところだけツヤツヤ若返った、そこで生き血は若返りの秘薬だと思い込み、村の娘たちを誘拐し殺した、生き血を絞る鉄の道具が「アイアン・メイデン」だったと伝わり、彼女をヒロインにした多くの「吸血鬼」映画が作られました。本作もその一つ▼どだい、女は若返りに血道をあげるという男性の確固たる先入観によって撮られています。本作のエリザベートは連続殺人鬼である。亡き伯爵の友人の息子イムレを誘惑し、彼もまた夫人との情事に溺れる。お肌スベスベにする生き血は処女でなければ効果効能がない。村の娘は伯爵夫人の城に呼ばれたら二度と戻ってこない。殺されたにちがいないと噂が広がり、夫人は逮捕され牢獄に監禁されたまま生を終える。さっきまで美女だったエリザベートが生き血の効能が薄れて行くと、醜悪な老女となる。鏡の自分に目を背け、処女の血を求める。若返りに狂奔する彼女を見ていると、当時の(今もかも)男性一般の年取った女への意地の悪さがよくわかる。ピーター・サスディ監督が意図してそう作ったわけではなく、原案そのものが女の価値を若さと美貌においていますから、そのセオリーからはみ出すものは全て劣悪にして醜怪なのね。しかしながら、若さに焦がれる女心には、エステ、美容整形業界の繁栄を見るまでもなく、古今東西通底する真実があり、エリザベートには物悲しいほどそれが体現されているだけなのかもしれません▼女優のイングリッド・ピットはピーター・カッシングと並ぶハマー・プロダクションの至宝。カッシングが「マイスター・オブ・ホラー」ならイングリッドは「ホラーの女王」。ポーランド出身でナチの強制収容所を生き延びた強い星の下に生まれる。ハマー・プロが不振打開のため打ち出したセクシー路線で、艶冶な女吸血鬼を演じ、ハマー再生の看板女優となりました。「バンパイア・ラバーズ」では当時はどの女優もビビっていたレスビアン・シーンにも、大胆に挑戦するプロ意識に監督が惚れ込みました。ベルリンで出会ったアメリカ人兵士と結婚し、カリフォルニアに移住したものの結婚は破局、ヨーロッパに戻り演技の勉強をし直し、スペインのホラー映画でデビューします。ホラーは彼女の故郷であり、愛着があったはずです。再びハリウッドにわたり「ドクトル・ジバゴ」や「荒鷲の要塞」の端役を得ましたが、女優として脚光を浴びたのはハマー・プロのホラーに出演してからです。ホラー女優ということだけで過小評価されていますが、ピットを愛するファンは多く、強制収容所の体験を書いた自伝のほか、小説や児童書を書くなど多彩な才能を発揮しました。2011年1121日ロンドンで没。73歳。本作は駄作ですが、ピットの出演によってカルトとなった映画です。心に残る女優です。

 

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