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特集「ベストコレクション」

2019年8月29日

特集「秋の気配は映画日和/8月のベストコレクション」⑧
メアリーの総て(上)(2018年 伝記映画)

監督 ハイファ・アル=マンスール

出演 エル・ファニング/ダグラス・ブース/トム・スターリッジ

シネマ365日 No.2951

偽善と失望の中で 

特集「秋の気配は映画日和/8月のベストコレクション」

 なぜメアリー・シェリー(エル・ファニング)は「フランケンシュタイン」を主人公に選んだのか。後世の「フランケンシュタイン」の評価があまりにも高く、また主人公が有名になりすぎ、彼が生まれたルーツなどいまさら…となってしまったのか。16歳の少女が、家族モノでもなく、恋愛モノでも青春モノでもなく、スリラーでもミステリーでもなく、16歳にして「血が凍りつき心臓が波打つような小説」を書きたいと明瞭なビジョンを持っていたのは、今から思うと奇妙なほどだ。母親はメアリーを産んで11日後に産褥熱で亡くなった。38歳だった。自分は母親を殺したようなものだと娘は悲しんではいるが、だからイコール、フランケンシュタインではないだろう。父ウィリアム・ゴドウィンは政治思想家として名高く、著作もあった。母メアリー・ウルストンクラフトはいうまでもなく、フェミニズムの先駆者で「女性の権利の擁護」は古典となった名著だ▼父からも母からも「物書き」の系譜をメアリーも受け継ぎ、口やかましい継母の目を盗んではノートに何か書きつける毎日だった。メアリーは物心ついて以来、記憶もない母親の著作を何度も読み返したに違いない。「お母様を思い出す?」と父親に訊いている。「情熱的な女性だった。妥協が嫌いで常に世の中と闘い、それを楽しんでいた。激しく短い一生だった」。継母と折り合いのよくない娘を父はスコットランドにいる友人のバクスターに預ける。娘を送り出す父の言葉は「お前には避難所が必要だ。孤独の中で自分と向き合え。お前の文章は人の真似だ。他人の思想や言葉をふり払え。自分の声を探せ」だった。娘はこの教えを創作の金科玉条とする。地元の名士であるバクスターは、有志を招いて読書会を開いており、メアリーが将来の夫シェリー(ダグラス・ブース)と出会ったのもこの会合だ。16歳と21歳だった。シェリーは社会の変革を激しく弾劾する過激な詩人だったが、本作の彼は気の毒なほどダメンズに描かれている▼義妹のクレアが重篤の病だと電報を受け取ったメアリーは急遽ロンドンに戻るが、姉がいない寂しさのあまり、クレアが打った芝居だった。メアリーを追うようにシェリーがロンドンに現れ、父ゴドウィンから政治学を学びたいというが、本心はメアリー目当てだった。そこへシェリーの妻ハリエットが現れる。妻だと名乗り、「この子は娘のアイアンシー。夫に近づかないで。あなたは何も知らないのね。私、彼と駆け落ちしたのよ。愛と理想に燃えてね。どんな代償を払うかも知らず」。シェリーの言い分は「結婚して5年。名ばかりの夫婦です。愛の冷めたあと夫と妻でいるのは理不尽です」。メアリーはこの男と駆け落ちするのだ。シェリーはメアリーの妹クレアとも関係を結ぶ。メアリーが責めると「僕には自由恋愛はないのか。君は偽善者だ」「あなただって私が思っていた人とは違う」。結婚生活は早くも暗礁に。一人娘クララを得たのも束の間、借金に追われるシェリーは寒い雨の夜、夜逃げを図り雨に打たれたのが元で赤ん坊は死んでしまう。夜遅くまで執筆しているメアリーの部屋を覗きシェリーが訊く。「寒くないか」「暖かいわ。偽善と失望のマントで」。のちにメアリーはシェリーと一緒になった理由を「何か書けるような気がしたから」と白状しています。メアリーは愛とか恋とかよりむしろ、「何か書ける」作家の本能で彼を選んだのです。そして正しかった。調子のいいことばかり言っているシェリーでしたが、彼が与えた「偽善と失望」の中でフランケンシュタインは胎動していたのです。

 

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