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特集「ベストコレクション」

2019年8月30日

特集「秋の気配は映画日和/8月のベストコレクション」⑨
メアリーの総て(下)(2018年 伝記映画)

監督 ハイファ・アル=マンスール

出演 エル・ファニング/ダグラス・ブース/トム・スターリッジ

シネマ365日 No.2952

見よ、怪物に命が宿る

特集「秋の気配は映画日和/8月のベストコレクション」

 メアリーと奇しき因縁で結ばれた同時代人のもう一人の天才がエイダ・バイロン。バイロンの唯一の嫡出子です。メアリーとシェリーとバイロン(父)はスイスの山荘で怪奇小説の想を練り、メアリーが「フランケンシュタイン」を書いたというのが定説です。メアリーは女性関係の派手なバイロンに好感を持っておらず、義妹のクレアは当時バイロンの子を宿していましたが「父親になる気はない。養育費は送る」とあっさりサヨナラ。メアリーは彼の娘エイダと後年親友となります。数学の傑出した才能に恵まれたエイダは世界最初といわれるコンピュータプログラムを書いた。世間は師匠の数学者バベッジの業績とし、エイダは単に注釈を受け持ったものと考えたが、その中でエイダはバベッジ自身も気づかなかった解析機関の可能性に言及しました。エイダは女性ゆえに才能と研究が認められない悩みをメアリーに訴えています▼これと同じ苦渋をメアリーは「フランケンシュタイン」の出版で嫌という程味わっていました。メアリーが原稿を持ち込んだ出版社はことごとくグロテスクすぎるという理由で拒絶。メアリーは打ちのめされる。「男という存在が血に飢えた怪物に見える。私という哀れな人間の残骸が惨めな姿をさらしている」そして出版社に食ってかかる。「女には書けないとお思い? 女は喪失や死や、裏切りと無縁だと? すべて私の物語に書かれてあるわ。中身で判断なさったらどう? 性別じゃなく」。たった一社ラッキントン出版だけが「匿名の出版とシェリーの序文」を条件に初版500部を了解した。「出版できるなら名前はどうでもいいじゃないか」というシェリーの言葉が火に油を注ぐ。「作者なんかどうでもいい? あなたにこの悔しさがわかる? 女だから作者の権利を捨てろと?」「僕だけが今の(夫婦の)不幸を作り出したと?」「もちろん私にも責任はあるわ。あなたを信じた私にも!」。初版は作者の名前のないまま店頭に並んだ。献辞は「『政治正義』の著者 ゴドウィンに捧げる」。処女作は父に捧げられたのだ。娘が「自分の声」を見出したことを父は祝した▼ゴドウィン書店で開かれた読書会に来たシェリーは「あの作品はメアリーが自分で書いたもので、私は序文を書いただけ」と本当のことを明言し世間の誤解を正します。妻が自殺したシェリーはメアリーと結婚し男子を得ました。ロンドンの書店に並ぶ「フランケンシュタイン」第二版にはメアリー。シェリーの著者名が入っています。メアリーはフランケンシュタインの末尾をこう書いた。「俺はお前のアダムだ。だが罪もないのに楽園から追放された。世界は喜びに満ちている。なのに、そこから俺だけがのけものにされる。惨めさが俺を悪魔に変えた。もし幸せを味わえたら善の心を取り戻せるだろう。だがもうじき俺は死ぬ。葬送の薪の上で業火に焼かれ歓喜の声を上げるだろう。ようやく安らかに眠れる。さらばだ」▼社会が受け入れなかった女性の分身は怪物でなければならなかった。やさしくもなければ美しくもない、悔しさと嘆きと、復讐の業火に焼かれた怪物でなければならなかった。「私は絶望との闘いの中で私の声を見つけた。私の選択が私をつくった。見よ、怪物に命が宿る」。エイダ・バイロンとメアリー・シェリーは1年違いで、メアリーの後を追うようにエイダは亡くなっています。メアリー54歳。エイダ36歳。メアリーは本作によって、エイダは「クローン・オブ・エイダ」によって、いずれも彼女らに深いリスペクトを捧げる女性監督の手によって光を当てられました。よかったと思います。

 

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