女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2019年9月13日

特集「映画に見るゲイ12」292
プレシャス(上)(2010年 ゲイ映画)

監督 リー・ダニエルズ

出演 ガボレイ・シディベ/モニーク/ポーラ・パットン

シネマ365日 No.2966

ママはお前を愛してるよ 

特集「映画に見るゲイ12」

 ゲイが直接のテーマではありませんが、ヒロイン、プレシャス(ガボレイ・シディベ)が絶望的な環境から、勇気と希望と、温かい人間らしい気持ちを取り戻すのに、決定的な影響を与えた人物がいました。彼女らはゲイのパートナー同士として、1980年代に自由に生きていた人たちです。プレシャスは16歳。ニューヨークのハーレムで生まれ育ち、子供を一人産み、現在妊娠中。相手は父親だ。プレシャスの夢は「肌色の薄い、綺麗な髪の彼氏がほしい。雑誌の表紙になりたい。まずプロモーションビデオに出たい。母さんは、デカ尻は誰も見ないっていうけど。数学は好き、でもいつも黙っている。教科書も開かない。毎日思っている。今に何かが起きる。あたしは変われるって。数学のヴィーチャー先生が好き。先生が旦那で一緒に暮らしていると想像する」。極彩飾の舞う空想の中でプレシャスは踊り、歌いイケメンと夢のひとときを過ごす。でも現実は校長室に呼ばれ、妊娠を理由に退学処分を言い渡される▼ゆさゆさと巨体を揺すって歩くプレシャスを「クソブタ」と同級生は罵る。「二度目の子がお腹にいるのね。何があったの?」校長先生はやさしく訊くがプレシャスは黙秘。家に帰れば「父さんはお前を愛している」言いながら父親は娘をレイプするのだ。母親はそれを黙認する。校長が家に来た。母親は追いかえせと言ってドアを開けさせない。校長は我慢強くインターホン越しに「あなたは数学ができるのね。才能を伸ばすべきよ。高等教育代替機関(EOTO)に電話したわ」。何ていい先生だろう。でも母親は、これがこの世の母親かと思う怪物である。「生活保護、受けてりゃいいのだ。あたしの亭主の子を産むからってエラソーにするンじゃないよ。くたばれ。誰もあんたを求めてなんかいないのに赤ん坊を二人。一人はケダモノと同じ。お前は生まれた時からロクデナシだ。くそデブ。殺してやる」耳を塞ぎたくなる言葉を高射砲のごとく連発する▼プレシャスは母親に隠れてEOTOに行った。ハーレムの片隅、廃屋のように汚れた玄関前には学校に行かない子供たちが寄り集まり、ヤクを売り女に声をかける。プレシャスが教室に入ろうかどうか迷っていると女性が声をかけた。「あなた、予科クラス? 早く入りなさい。来ないの? 教室のドアは20秒後に締めるわ」。これがレイン先生(ポーラ・パットン)だった。すらりとした綺麗な先生だ。生徒たちは煮ても焼いても食えない、すでにビッチである。先生は意に介さず「一人ずつ自己紹介するの。私はレイン。歌が好き。ここへ来たのは教えるのが好きだから」。ロンダ「料理が得意」。リタ「生まれはハーレム。ヤク中になってここへ来た。読み書きできない」。ジャーメイン「好きな色は赤。ダンスが得意。ブロンクス生まれ」。プレシャスは「ハーレムに住んでいる。料理ができる。クラスで一言も喋ったこと、ない」先生「お母さん、仕事は?」「何もしていない。母さんはクジラだよ。お前のせいでアパートが狭いって。一日中ブラインド下ろした部屋でテレビを見て食って、また食う。助けてくれる? 他の話をしよう」「最初の子は?」「モンゴ。ダウン症なんだ。生活保護は母さんが横取り。最初の子はキッチンで産んだ。母さんが来て蹴られた」。プレシャスはお腹の子に話しかける。「ベイビー、ママは馬鹿じゃないよ。ママはお前を愛しているよ」…。プレシャスは二人目を産み男の子にアブドルと名付けた。学校をやめると先生に言った。「あなたはまだ何も勉強していないのよ。あなたは自分に責任がある。子供がいたら勉強もできない。退院したら学校に戻って。まだ17歳よ。うまく育てられる人に子供を預けなさい」「あたしがいちばんうまく育てられる」「生活はどうするの。予科から大学へ行くのよ。将来は無限よ」。赤ん坊を抱いてアパートに戻ったプレシャスに母親が逆上する。「あたしの男を盗んで子供を二人も産むなんて。生活保護がパーだよ。くそバカ。誰がお前なんかレイプするかよ」。危険を感じて部屋を出たプレシャスに階段の上からテレビを投げ落とす。プレシャスは子供を庇って転げ落ちた。雪の舗道を当てもなく歩く。先生が夜遅く学校に戻ると、プレシャスが赤ん坊を抱いたまま椅子で眠っていた。くたびれきった寝顔に視線を当てたまま、先生は誓うようにつぶやく「住む所を必ず見つけるわ」。