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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2019年9月21日

特集「映画に見るゲイ12」300
ユリゴコロ(下)(2017年 サイコ映画)

監督 熊澤尚人

出演 吉高由里子/松坂桃季/松山ケンイチ/佐津川愛美/木村多江

シネマ365日 No.2974

苦しみの量 

特集「映画に見るゲイ12」

 息子亮介は婚約者千絵と山のレストランを開業し、順風満帆だったがある日フイと千絵が失踪した。父親洋介はすい臓がんで危ない。父親の家で見つけた「ユリゴコロ」と題した告白書を読んで自分が、父からは死んだと聞かされた母美紗子の息子であるとわかる。分かったとたん叫ぶのだ。「俺は殺人鬼の息子か!」とね。母親に対する同情は一切ないのね。殺人鬼の息子だったらどうだっていうのよ。人間ほじくり返せば殺人者、詐欺、強盗、ムショ入り、精神病、変態、どんな血が混じっているかわかったものじゃないわよ。そこへ細谷(木村多江)と名乗る中年の女性が現れ、千絵に会ったという。彼女の語るところによると、千絵は既婚者で元夫はヤクザ。千絵の親が元夫から多額の借金をした。千絵を連れ戻した元夫は都内のマンションに監禁し売春させている。聞いた亮介は包丁を包んで細谷の制止も聞かず「俺には殺人鬼の血が流れているンだ」と叫び車をぶっ飛ばす▼細谷は洋介と別れた後、整形し再出発を図った美紗子です。料理学校で学び直している時に千絵と会う。人との関係を持たずにいた美紗子が千絵とは気があい、話しているうちに、息子亮介と結婚する相手だとわかる。さらに物騒な元夫との関係など、このままではただではすまないと母親は察する。それとなく亮介のレストランを訪ねたら案の定クズ男に拉致されているではないか。おまけに息子は頭に血が上っている。美紗子は先回りして亮介が到着する前にマンションにいた男たち全員を殺してしまう。女一人でどうやって…と思うがとにかく殺しちゃうのだ。亮介は閉じ込められていた千絵を救い出しレストランに帰った。マンションの現場に緑のイガイガ虫が落ちていて、千絵が「みつ子さんと知り合った」と口にしたことから、「ユリゴコロ」ノートを読んでいた亮介は、その名が美紗子の使う偽名だと知っていた。細谷に怒りまくる。「どうして俺と父さんの前に現れた!」。その前にお礼はなし、かよ。キミがやる氣になっていた(はずの=ただし母親ほど上手く殺せたかどうかはともかく)殺しを片付け、千絵を助けてくれた恩人だろう。「殺しなさい」と頼む母親の首に亮介は手をかける。これが二度目の「殺されかけた場合」。親父も息子も殺人鬼の美紗子を責めようとして責めきれない。そらそうだと思うわ。彼女のやること、やったことのほうが、さらに言えば彼女の抱えてきた苦しみの量は、責める彼らよりケタちがいに重いのだ。美紗子は自首する。美紗子はみつ子がリストカットするのをやめていれば、どこかの小さな町で、さっぱりした店を開いていた。売春の過去を暴いて脅しに来る男を殺すこともなかった。洋介とは巡り合えず、亮介を産むこともなかったが、自分たちは人間のできそこないだと、見せ合う手首の傷は笑い話になったはずだ。みつ子を失ったことが美紗子の分岐点だった。人との出会いだけでなく、喪失もまた運命を変える。