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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2019年9月22日

特集「映画に見るゲイ12」301
荒野を歩け(上)(1962年 ゲイ映画)

監督 エドワード・ドミトリク

出演 ローレンス・ハーヴェイ/キャプシーヌ/ジェーン・フォンダ/アン・バクスター

シネマ365日 No.2975

ヘイズ・コード 

特集「映画に見るゲイ12」

 アメリカ公開が1961年ですから、まだヘイズ・コードが厳しかった時代です。教会や婦人団体が主体となり、映画の公序良俗を保つため、表現は厳しく校閲せよ、その取り決めがいわゆるヘイズ・コードと呼ばれました。どんなシーンが槍玉に上がったか。ゲイ映画100年史のドキュメント「セルロイド・クローゼット」によれば「口を開けたキス、性的な抱擁、性倒錯、強姦、中絶、売春、白人奴隷、ヌード、わいせつな行為や言葉、冒涜的表現」とあります。セリフや人物設定の変更まで行いましたから、表現の自由も個人のアイデンティティもあったものじゃない。これによってゲイ映画は撲滅されたか。いいえ。「同性愛映画はカモフラージュして生き残りました」とあります。監督や脚本家は検閲者に悟られぬよう、巧みなセリフや小道具で、見る人が見たらピンとくる名場面を設定。「セルロイド…」はこう表現しています。「賢い監督たちに検閲者は騙された」ずる賢いというべきでしょうね、特にヒッチコックみたいな▼本作の筋書きはシンプルです。農業を営んでいたドヴ(ローレン・ハーヴェイ)は別れた恋人ハリー(キャプシーヌ)を探しにニューオリンズに行く途中だ。土管で野宿するフーテン娘のキティ(ジェーン・フォンダ)と知り合うが、アバズレのキティと別れ、レストランの女主人テレシーナ(アン・バクスター)の元で働くことにする。新聞の広告欄に「尋ね人」を出し、ハリーの居場所がわかった。「人形の家」という高級娼館だ。娼館の経営者ジョーがバーバラ・スタンウィック。ドヴはハリーを探し当て、結婚を申し込む。ハリーは自分の身の上を考え、何しろ通りを歩いていたら牧師みたいな男が、赤らさまにハリーを罪人と呼び地獄に堕ちろ、と罵るのだ。でもドヴは「宗教とは人を救い、幸せにするためにある、お前の教義は間違っている」と言い返す。そんなドヴの男らしさに(今の身の上を打ち明けても許してくれるかも)とハリーは思う。許さないのはジョーだった▼ジョーとの関係はハリーが言うにはこうだ。「あなたと別れテキサスを出てニューヨークに行った。毎日口を利くのは店員か誘ってくる男だけ。孤独に耐えられなかった。あなたに手紙を書いた。汚い狭い部屋で泣きながら」ドヴ「父が病気で僕を必要としていた。家を出られなかった」「あなたは私に希望すらくれなかった。ある時一人の女性が私の絵を買った。嬉しかった。私を訪ねてくれた。ようやく私を理解してくれる友人ができた。私はあなたを求めて泣くのをやめたわ。彼女は私を気遣い、守ってくれた。この家に連れてこられアトリエを見せられた時、ここが自分の居場所だと思った。私はもうあなたにふさわしくない。帰って」。ドヴと別れてハリーはジョーと同棲したのですが、あからさまな関係は一言もスクリーンで触れられません。「私を気遣い、守ってくれた」なんて、フツーに聞いていると変哲のないセリフだが、聞く人が聞くとわかる。でもドヴはこう…なんというか、あまりこっちの方面にさとくない男です。どうにも我慢ならないのがジョー。キャプシーヌの美貌と洗練された態度物腰、大きく見開く美しい瞳。対してバーバラ・スタンウィックは、この時55歳でしたが頬の引き締まった容貌と細い肢体は全身これカミソリ。ジョー「テキサスの農夫に恋したの?」ハリー「結婚するの」「あなたを失うのは残念だわ。好きにすればいいけど、あなたの正体を知ったら彼はどうするかしら」「許してくれるわ」「あなたがどう過ごしてきたか、汚いことをしてきたか。彼と離れなさい。彼と私をウソでごまかそうとしてもダメ。あなたが話さないなら私が話すわ。それで終わりよ」。眉も動かさず冷静である分ドスが効いています。蛇足だけど「あなたの正体」とジョーが指摘しているのは、ハリーが娼婦をやってきた、という意味じゃないですよ。そんなことなら「人形の家」にいると聞けば誰でもわかることですからね。鈍感な検閲官はジョーの真の意図に気がつかず、この映画は検閲をパスしました。