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特集「早すぎた才能」

2019年9月27日

特集「早すぎた才能/アイダ・ルピノ」③
ヒッチ・ハイカー(1953年 劇場未公開)

監督 アイダ・ルピノ

出演 ウィリアム・タルマン

シネマ365日 No.2980

あなたはどんな女性だった? 

特集「早すぎた才能/アイダ・ルピノ」

 ガス欠で立ち往生をしていた男マイヤーズ(ウィリアム・タルマン)を乗せたギルバートとロイ。二人は古い友人同士で自宅のあるカリフォルニア州からメキシコのサン・フェリペへ釣りに行く途中だった。途中乗せた男は殺人鬼。ギルバートは製図工、ロイは整備士だ。後部座席から拳銃を突きつけ、マイヤーズは聞いてくる。「釣りに? いつ帰る予定だ。女房子供はいるのか。再会できるといいな」。車はガソリンスタンドへ。地図を買ったマイヤーズは金曜日にグアイマス行きのフェリーが出ると知り、カリフォルニア湾を渡って捜査をまこうと考える。顔が割れているマイヤーズは、一人では目立つのでロイとギルバートを隠れ蓑にするつもりだった。警察は各州に検問所を設け、厳しい監視体制を敷いている。マイヤーズは28歳。細身の体格に黒いシャツと黒の革ジャン、右瞼が半分マヒしている▼彼の指示がいちいち具体的なのだ。「ハンドルの上部に手を置け」とロイに。ギルバートに「お前は左腕をシートに、右腕を窓におけ。ボックスを開けろ。箱の中はなんだ。実弾? よこせ。車を降りる手順を教える。俺が降りたらお前だ。車から離れていろ。上着を肘まで下ろせ。戻せ。トランクを開けて両手をフタに乗せろ」トランクの中のライフルを認めたマイヤーズは二人の腹を読んで「無駄だ。ここで野宿する。隙を狙っているだろうがチャンスはない。俺に殺されるだけさ。この目は閉じないのだ。便利だろ」。モノローグのような抑揚のないセリフ。二人はマイヤーズのペースにどっぷりはまり、操り人形みたいになってしまう。ロイは「奴を殺そう」とギルバートに囁くが「俺たちが必要なうちは殺さない」と、ギルバートは様子を見る。車からガソリンが漏れ、乗り捨てると3人で砂漠を歩く。足を痛めたロイに「俺と同じ身長だな。顔さえバレなきゃわからない。服を脱げ。交換する」。男二人は疲れと暑さで抵抗する気力をなくしていく。ヘリコプターを見たロイが「俺たちはここだ。助けてくれ」と両手を振るが気付いてくれない。ほぼ錯乱だ。ギルバートは哀れそうに、マイヤーズは冷笑してロイを見る▼ようやく3人は目的地サンタ・ロサリアにたどり着く。フェリーの船着場は火事で焼け、2ヶ月船は出ない。マイヤーズは地元の青年に金を弾みボートを調達し、逃げようとする。青年を紹介したバーの主人が似顔絵を見て、マイヤーズがお尋ね者だとわかり通報した。桟橋に着いたマイヤーズは先にロイを歩かせ監視の注意をひきつけようとしたが、物陰から警官が発砲、包囲され、逃走しようとしたが警官隊ともみ合いののち、マイヤーズは逮捕された。たったこれだけの話で尺は70分。男3人、特にマイヤーズの隙のない高密度な存在に惹きつけられタルミを感じさせない。アイダ・ルピノは35歳で本作と「二重結婚者」の2本を監督した。いずれもハイレベルな作品だ。本作は後年ルトアー・ハウアー主演「ヒッチャー」の原案となった。誤解も曲解も、しようがないほどシンプルなストーリーを、ルピノは映画の楽しさとはこういうものだとでもいいたげに、単純な事物を「いかに」見せるかに徹している。ヒッチコックに共通する。脚本もルピノが参加し、長いセリフはほとんどない。マイヤーズの唯一のおしゃべりなシーンは「お前たちは甘い。誰かに頼って生きているからさ。ガキと同じだ。自分で歩くのが怖い。いい育ちで甘っちょろい。俺は違う。誰も何もしてくれなかった。誰にも借りはない。盗人の家系さ。親は生まれた俺を見て消え失せろと言った。親なんかいらない」冷酷な連続殺人犯の根っこを、カタログで見せたようなセリフだ。一体アイダ・ルピノとはどんな女性だったのだろう。幾つもの引き出しを持つ複雑な女性。知的武装しながら仰々しい表現はなく、女への上から目線の社会をマイペースで歩きぬく。多岐にわたる役を演じた基本ハンサム・ウーマン。人を突き飛ばしたような素気ないこの映画を見ながら、カメラの後ろにいたはずの、アイダ・ルピノの存在が膨れあがっていった。

 

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