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特集「ベストコレクション」

2019年10月4日

特集「コスモス秋風に揺れ/10月のベストコレクション」④
天才作家の妻—40年目の真実(下)(2019年 社会派映画)

監督 ビョルン・ルンゲ

出演 グレン・クローズ/ジョナサン・プライス/クリスチャン・スレーター

シネマ365日 No.2987

本当の天才は別にいる 

特集「コスモス秋風に揺れ/10月のベストコレクション」

 ナサニエルは鋭く質問する。「なぜ自分の名で書かなかったのですか。後悔はありませんか」「ないわ。女流作家が活躍できる時代ではなかった」「成功した作家もいたはず」「私は作家に向いていなかったの」「ジョセフは書くことを勧めなかった?」「勧めたけど私自身が望まなかった」「作家は家に一人でいい? 失礼ながらあなたは影として夫の伝説を作り出すことにウンザリしているのでは。家族のために真実を公表しませんか。情報源は明かしません。あなたも責められず事実だけを明らかにします」もう一人父親のインチキに気づいていた人物がいた。息子のデヴィッドだ。子供の頃から母親は父の書斎に入り詰め、何か書いているらしいが誰も入れなかった。彼も作家となったが父親は息子の作品を認めず高圧的な批評ばかりする。面白くなさそうにバーにいるデヴィッドにナサニエルが話しかけた。「父親にコンプレックスを持つ必要はありません。本当の天才は別にいます」▼帰国の機内でジョーンは「帰ったら真実を打ち明ける」と息子に約束する。同乗していたナサニエルには「夫の名誉を傷つけることを書いたら訴えます」と引導を渡す。しかしなぜ、ジョーンは自作を書かなかったのか。着想のうまさは夫が上だとは認めていた。それだけなら、エラリー・クイーンのような分業の執筆方法も取れたであろう。影にいたほうがよかったのか。かもしれない。創作者が責任と批判の前に立つしんどさはわかっていた。夫がそれを受け持った。身も蓋もない言い方をするなら、夫婦は適材適所で役を演じたのだ。前述に戻るが、もしこれがノーベル賞という途方もない栄誉でなければ、二人の分担は波風立たず進行したかもしれない。世紀の文学賞だとわかって、ジョーンは自分の失敗を思い知らされた。夫は大声で言うのだ。「僕を捨てるな!」まるで自分を捨てたらお前も未来はないぞと言わんばかりに、胸を張って言うのだ。「触らないで。こんな屈辱には耐えられない。あなたのコートを持ってメガネを用意して、薬を出して食べカスをヒゲから取って、奥様方とくだらない話をする。そんな私を尻目にあなたは言った『妻は書かない』ですって。その妻がノーベル賞を取ったのよ」「なぜ結婚した」「わからない」犬も食わぬ夫婦喧嘩のレベルに、勘弁してくれと言いたくなろう。言い争いの最中、ジョセフは心臓発作で死んでしまう。収束させるのは死なせ落ちしかないでしょうね。竜頭蛇尾の感がなきにしもあらずですが、中盤のグレン・クローズとクリスチャン・スレーターが映画のネジを引き締めました。ラストで正面を見るグレンの青い目に、アレックス(「危険な情事」)とクルエラ(「101」「102」)という狂気の逸脱者が重なりました。ナサニエルがどこかで真相をすっぱ抜き、うじゃうじゃした代筆屋をかなぐり捨てた、グレンの「ビッチ再び」を見たい気もします。