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特集「ベストコレクション」

2019年10月10日

特集「コスモス秋風に揺れ/10月のベストコレクション」⑩
モンスターズ 悪魔の復讐(下)(2019年 社会派映画)

監督 クレイグ・マクニール

出演 クロエ・セヴィニー/クリステン・スチュワート

シネマ365日 No.2993

二度と会うことはない

コスモス秋風に揺れ/10月のベストコレクション

 脅迫文の筆跡が同じだとリジーは叔父ジョンの企みをすっぱ抜く。ジョンはこう侮蔑する。「お前は自分を特別だと思っているが、とうに盛りを過ぎた平凡な女だ。誰がお前を理解した? お前は無価値な人間だ。今までもこの先も。お前は私の恐ろしさを知らんのだ」。叔父がつかみ掛かった時「リジー様」マギーが声をかけた。翌朝マギーの部屋を開けたリジーに、彼は早朝挨拶もせず旅立った、もう大丈夫だと安心させる。リジーはベッドに腰掛け「ありがとう。私をこの部屋から追い出さないで」「まさか」マギーは痛まし気に見やる。視線がお互いの目と唇を交錯する。納屋で、マギーは大胆だった。小柄なクリステンがクロエを干し草に押し倒し行為をリードする。クリステン、ひょっとしてガッツリ本気を出したのでは▼ところがそこを父親が見た。「マギーは9月で解雇する」「理由は?」「お前たちの関係は不健全だ。私に言わせるな」リジーはひるまない「言ってよ。どんな関係か聞きたいわ」「お前は一家の恥だ」「それなら私たちは同類ね」。継母は凱歌をあげた「お父様は今度こそ許さないわ。もうすぐ施設に送られるわ」。マギーは不安にあぶられた。「私が守ってあげる」とリジー。「守れないかも」「約束する。絶対に守ってあげる」暗い目でマギーは「助けがいるなら協力します」「本気で?」「本気です」。後日マギーは裁判の証言台に立ったが口を割らなかった。新聞は「リジー有罪か」と報道している。マギーはある夜リジーの収容された施設(精神病院)に行き、5分だけ面会を許された。「私はあなたの何?」と訊く。「知っているでしょ」とリジー。「わかりません。あなたのことも」「前のほうがよかった?」「望みは何です?」「一緒にいたい」「あなたは夢を見ている。わかっていないのです」「何を?」「私たちがいるのは夢の世界じゃない。現実です」「わかっているわ」「どうか約束を。今後連絡はしないでください」「いいわ」マギーは街を出た。ふたりは二度と会わなかった。これがリジーはマギーを、マギーはリジーを守る形だった。「さらば友よ」と同じ動機です。最大の理由が我が身の保身であったとしても、関係を絶つことがどちらもが生き残るベストの策だった。マギーは、今はブリジットと呼びますが、彼女の最後の言葉は「私は何も望まなかった」でした。このままではわかりにくいが「何も望まなかった、一緒に行動する以外は」と補足すれば、彼女がリジーに何も望まず殺害に加担したことがわかります。ことの重大さをリジーはむろん知っていた。だからこそ「連絡を取らない」意味が一生の決別であること、自分の「一緒にいたい」望みが、叶うはずのない世界であることがすぐ飲み込めたのです▼酸鼻を極めた殺害の現場はこうでした。寝室で着替える継母を素っ裸のリジーが斧で頭を割る。マギーは窓を拭きながら行われていることを知っている。吐く。リジーは斧を洗い、服を着る。マギーが裸になり斧を手にして帰宅した父親の前に現れる。マギーは斧を振り下ろそうとするがためらう。リジーが現れ斧を奪って父親に振り下ろす。マギーは裸のまま顔をおおい、部屋の隅にうずくまる。「ブリジット(リジーはいつも本名で呼ぶ)上で休みなさい」。納屋に行き鳩の首を落として血を斧になすりつけ、返り血を浴びた服を焼却する。発見された斧についた血が鳩の血だったことが、証拠不十分の根拠になった。ブリジットはモンタナに移り住み82歳で他界するまで農場で生活した。リジーは一人で暮らし、生涯未婚で財産の大半を動物愛護協会に遺贈し67歳で死亡。映画はリジーとマギーの恋愛説を取り入れたが実証するものはない。ないが、これまでの「リジー・ボーデンもの」よりはるかに説得力のある設定となっています。のっぴきならない、存在のぎりぎりに立たされた二人の内面のせめぎ合いに比べたら、ゲイ映画の傑作「キャロル」はメルヘンでした▼クリステンのいつもの軽い猫背が、薄幸のブリジットによくあっていたし、地味なメイド服が似合うのも、彼女の違う一面を見たようで意外でした。いい監督や女優との共演を選び「アクトレス」の表現力は、彼女がコツコツ水面下で身につけた努力の蓄積でしょう。見かけより複雑な女性だと思えます。クロエはリジーを、時代が許さなかった自我の意識に目覚めている、理性的な、思索する女性として捉えました。彼女は本作のプロデューサーであり、従来の「リジーもの」になかった新解釈の導入に成功しています。