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特集「ベストコレクション」

2019年10月13日

特集「コスモス秋風に揺れ/10月のベストコレクション」⑬
世界で一番ゴッホを描いた男(下)(2018年 ドキュメンタリー映画)

監督 ユイ・ハイボー/キキ・ティエンチー・ユウ

シネマ365日 No.2996

立ちはだかる「オリジナル」 

コスモス秋風に揺れ/10月のベストコレクション

 ゴッホの原画を前にしたシャオヨンは「ひまわり」の前で10分ほど立っていた。「自画像」がある。「ジャガイモを食べる人たち」がある。「色が違うな」とシャオヨンはつぶやく。20年複製画を描いたが原画とは比較にならない。寝ずに考えた。帰国後はどう描こうかと。アルルへ来た。ゴッホが治療を受けた病院がある。鉄格子のはまった窓。暗い廊下。息が詰まりそうな雰囲気。ゴッホの描いたカフェに来た。100年以上経ってもそのまま残っている。「夜のカフェテラス」を現場にイーゼルを立て、自分で描いた。「今ここにいる俺はゴッホだ。ゴッホになって一気に描き上げる」気分が高揚した。オーヴェル・シュル・オワーズのゴッホとテオの墓に詣でた。ついにゴッホに出会えた。思いは伝わったはず。そう思った…同時に大きな壁を感じた▼美術館の警備員が「ゴッホの絵を20年も。素晴らしい。あなたの作品はないのか」「ない」帰国を祝う食事会の席で「俺たちは職人だ、職人が芸術家になることは絶対的にない」とシャオヨンは苦い思いを噛みしめる。同席者たちは「画家、絵描き、職人、どれも単なる呼び方さ。重要じゃない。重要なのは自分自身の認識だ。自分は芸術家を言えるか、鑑賞に耐える作品があるか、大切なのは自分の思いだ」。しかしこれはシャオヨンの混迷をますます深めた。同じ複製画家のチョウ・ヨンジウはオリジナルを描き始めていた。「ダーフェンでオリジナルの注文が増えている。以前と違って市場が受け入れてくれる」。シャオヨンは自分が一番敬う祖母と、自分の工房を描いた。2DKの部屋を工房にし、十数年暮らしてきた。結婚、子育て、弟子の育成。すべてをここでした。「オリジナルに進もう」シャオヨンは決意する。自分のスタイルで作品を生み出そう。一点でもいい。俺の人生こそが俺の芸術だ。今は評価を求めない。50年後、100年後に認められるかも。どう言えばいいのかわからない。しかし描きたいものを描くのに誰の許可や賛成がいるだろう。深圳は曇り時々雨。所により雷雨。その夜テレビはまるで、シャオヨンの先行きのような天気予報を告げるのだった▼思いかえしてみよう。「百万本のバラ」のモデルであり、清貧のうちに死んだ「放浪の画家ピロスマニ」、部屋に閉じこもり掃除夫をしながら息をひきとるまで空想の絵を描き続けた「非現実の王国で/ヘンリー・ダーカーの謎」、1日3点、50年以上にわたって観光客に独特の売り絵を描いた「ニキフォル 知られざる天才画家の肖像」、83歳で他界するまで人に知られることなく10万枚のネガを撮っていた女性写真家は、死後作品を公開したシカゴ文化センターで、史上最高の入場者を動員した(「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」)。セザンヌはエクスの隠者となって死ぬまで描き続けた(「セザンヌと過ごした時間」)。彼らが求めたのは熱い魂の根源だった。魂の根源が彼らを呼んだと言った方が正しいかもしれない。シャオヨンがオリジナルの画家として成功するかどうかわからない。そんなことは描きたいものを描く思いの前にはすでに取るに足るまい。リルケは言っているではないか。「芸術とは一種、生きることであります」。それで充分ではないのか。

 

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