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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年10月14日

特集「美しい虚無10」①
ビューティフル・デイ(2018年 社会派映画)

監督 リン・ラムジー

出演 ホアキン・フェニックス/エカテリーナ・サムソノフ

シネマ365日 No.2997

今日はいい天気よ 

特集「美しい虚無10」

 リン・ラムジー監督は「少年は残酷な弓を射る」から6年。彼女は殺人フェチなのでしょうか。サド女子なのでしょうか。前作は母親の愛情が偽善であるとして家族を殺し、同級生らを体育館に閉じ込めて弓で殺す、母親は保護者たちの憎悪を買い村八分。刑務所に息子を訪ねに行くがどうしても理解できない。母親を演じたのがティルダ・スウィントンで、虚無に投げ込まれたラストの母親の表情が秀抜でした。本作でラムジー監督は社会に適応できない退役軍人のジョー(ホアキン・フェニックス)と、少女売春のトラウマによって心を破壊された少女ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)が、自分の居場所を見出そうとするこれからの人生を、「はかないけれど希望がなくもない、希望はあるかもしれないが基本的に虚しい」二つの視座を、幻想のシーンを駆使して詩的な映像にしています▼戦場での体験と父親の虐待による重度のPTSD(トラウマ障害)を抱えるジョーは、常にフラッシュバックに悩まされ、FBIを辞職、行方不明の女の子を捜しだして助ける仕事を請け負っている。娘ニーナを少女売春組織から救出してほしいという上院議員の依頼を受ける。ギャングの巣窟のような組織から助け出すのは容易ではなく、ジョーのとった手段は強硬突破、ハンマーを手にガードマンたちを片っ端殴り殺していく。ニーナを助け出したものの、能面のような表情で失語症に近い。ジョーに抱かれようとする。「そんなこと、しなくてもいいんだ」。ジョーは穏やかにいい、父親と待ち合わせ場所のモーテルに送っていくが、テレビのニュースで父親がホテルの22階から飛び降り自殺したことを知る。直後に汚職警官が乱入しニーナをさらっていく。ジョーの仕事の仲介者も殺された。家に帰ると母親も殺されていた。黒幕はニューヨーク州知事のウィリアムズで、ニーナは彼のお気に入りだった▼母親は認知症だった。「彼女とはうまくいっているのかい」と母親が聞くと「20年も前の彼女だよ」ジョーは穏やかに訂正するやさしい息子だった。母親を湖に水葬する。ジョーは黒いスーツにネクタイ、喪服の礼装で母親を抱き自分も沈んでいく。ジョーには自殺願望がある。ニーナの幻が現れた。ニーナは拉致される瞬間「ジョー」と叫んだのだ。あの子を救出する最後の任務だけは遂行しよう。ジョーは湖面に浮かびあがる。ウィリアムズの家に行きガードマンを片付けた。ウィリアムズは寝室で喉を切られて死んでいた。食堂に降りると、ニーナが血だらけの手で皿から手づかみで食べていた。悪夢だ。ジョーはニーナを近くのレストランに連れていく。疲れ切った。口に銃を加え、頭を撃ち抜く妄想に襲われる。弱々しく顔を上げてトイレに行く。戻ってくるとニーナが言った。「今日はビューティフル・デイよ」。今日はいい天気…心の傷から立ち直れないジョーと、感情を失った美少女。二人は連れ立って店を出て行く。ジョーはニーナが求めた「ジョー!」という叫びに、ニーナは心のどこかに残っていた「ビューティフル・デイ」の感性に、二人が通い合う絆を見出すのか。彼らの後ろ姿に暗澹とするか、希望の一片を見出すかは観客に委ねられます。原題「あなたは、本当はここにはいない」(Never Really Here)虚無と現実を彷彿させるいいタイトルですが邦題もいいですね。ホアキン・フェニックス、カンヌ国際映画祭男優賞で快進撃。母親役のジュディス・ロバーツが脇を締めています。出演作に「オレンジ・イズ・ニューブラック」。鷹のような鋭い容貌は一度見たら忘れられません。

 

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