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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2019年10月22日

特集「美しい虚無10」⑨
残酷メルヘン親指トムの冒険(2012年 ファンタジー映画)

監督 マリナ・ドゥ・ヴァン

出演 ドニ・ラヴァン

シネマ365日 No.3005

飯より好きな異端と禁断 

特集「美しい虚無10

 続けてマリナ・ドゥ・ヴァン監督です。「イン・マイ・スキン」は自分の体を食べたい女性でしたが、本作の主人公は人の体を食べたい食人鬼の話。「親指トム」が主人公のはずですが、監督がメタメタになぞっているのは、娘の腕の血を啜りたい人食い鬼(ドニ・ラヴァン)に他ならない。娘は怪我をして剥がした皮膚の一片を「パパにあげる」。パパはフライパンで焼いて、やれ香ばしい、やれ蜂蜜と合うなどと恍惚とし、感極まって泣きだす。というのも妻が用意する最近の夕食は「羊に豚に馬」で、好物の人肉にありつけなかったからです。両親に捨てられ森をさまよっていたトム兄弟5人は一軒家にたどり着く、そこは人食い鬼の住処だった。鬼は帰宅して鼻をヒクヒクさせ隠れていた兄弟を見つけ出す。妻が機転を利かせ、もう少し太らせてから食べたらどうかと勧め、鬼は承知。5人の娘も納得してベッドに入ったが、トムは娘たちが眠っているうちにティアラと自分たちの白いナイトキャップを交換、夜中に腹を減らした鬼はナイトキャップの娘たちを、兄弟だと思って食い尽くしてしまう▼脱出した兄弟は「魔法の靴」を履いて巨人となった鬼に簡単に捕まり胃の中に。そこには食われていた鹿やうさぎや子供達がウロウロ歩きまわっている。トムはうさぎの骨で胃壁を破り外へ出る。鬼は死んでしまう。鬼の家に戻ると妻は娘達の亡骸のそばで自殺。トムは宝石や飾り物を持って我が家に帰るや豹変、両親や兄たちに「トムさま」と呼ばせ、玉座に鎮座して、細かくちぎった生肉を投げ与え、先を争って肉を拾う様子を無表情に眺めリンゴをかじる。利発な少年の面影はかき消え、着飾ってアホヅラ満開という辛辣なエンド。親も親で、子供を捨てて余裕ができたら次の子を作ればいいと、早速セックスを始める。兄たちはトムをこき使い、道に迷っても「トム、俺たちをちゃんと連れて帰れ」とエラソーに命令。トムは順々と従っていたが、自分の力を自覚するとやさしさも寛容もない独裁者になり変わります。インポスター症候群(成功しても自分の力だと信じられず自己評価が低い)と真逆現象ね▼貧しい村や餓死した村人、家は掘建小屋で飢えた息子たちは子犬を産んだ母犬のおっぱいにさえ吸い付く。飢饉と貧困にあえぐ社会で、賢者は生き残り、愚者は滅びるという、イソップ精神を読み取るのは簡単ですが、日常と断絶した異端者同士のバトルで、生き残ったのは小さな、美しくもない怪物もどき、というところに、監督のユーモアと皮肉をまとった、倒錯への嗜好を覚えます。メルヘンに名を借りず、次は存分に、彼女が飯より好きな異端と禁断とエロスの迷宮に挑んだらどうかしら。もっとパワフルな映画になると思うわ。

 

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