女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「神も仏もない映画」

2019年11月25日

特集「神も仏もない映画3」⑩ 
迫り来る嵐(2019年 社会派映画)

監督 ドン・ユエ

出演 ドアン・イーホン/ジャン・イーイェン

シネマ365日 No.3038

冷え込む映画

神も仏もない映画特集

 主人公ユイ(ドアン・イーホン)が刑務所に入ってから出所するまで、10年間の中国社会の激変が背景にあります。1997年から2008年です。信じていた価値観が逆転し、国家は新体制となった。彼は在職中優秀社員として表彰されたほどの社員。会社も世間も彼にとって居心地よかった。担当部署は警備。部下や同僚たちから名探偵とおだてられている。工場の近くで起きた連続殺人に首を突っ込み深入りする。犯人が殺す女性には共通のタイプがあり、ユイは恋人が似ているから、囮にして犯人をおびき寄せようとする。恋人のイェンズ(ジャン・イーイェン)は田舎の町に流れてきた夜の女だ。身寄りもない。香港で美容院を開くのが夢だ。ユイは売りに出た店を借り女に美容院を開かせ、店にくる客を見張る。イェンズはユイの目的が自分を囮にすることだったとわかり、鉄橋から飛び降り自殺する。ユイは犯人と目星をつけた男を半殺しにした。捜査の責任者だったジャン警部は「こいつは犯人じゃない」。ユイは逮捕され懲役10年。出所すると警部は認知症となり病院にいて話もできなかった。彼に残した手紙があり、犯人はすでに死亡、火葬に付されているという。俺の人生はなんだったのだろう…▼日本でも戦後価値観がガラリ変わりましたよ。時代は疾走し人間は取り残された、という映画かというとそうじゃないですね。犯人は誰かというミステリーでも謎解きでも恋愛でもない。終始暗い大量の雨が降り続くやるせない街の物語です。主人公には地縛霊でもついているのでしょうか。繁栄を誇った会社は時代に適応できず社員を整理、ユイも解雇。かつて表彰された栄誉も今は昔。恋人は自殺。自分を師匠と呼んでくれていた部下は、追跡中、墜落事故で死ぬ。残る生きがいは犯人捜索だったわけ? それがよくわからんわ。人間と時代は、いつだって誰だって大変なのよ。まあ西側経済の一端にいた日本と、中国の激動は比較するのは難しいけど、ユイの身の上に起こったことはまさに「迫り来る嵐」だったでしょうけど▼でもさ、この主人公おかしいわよ。好きな女がいるのに彼女を大事にするより、探偵ごっこが大事だったなんて、そのトチ狂い方に共鳴できないのよ。ドン・ユエ監督は監督長編処女作と思えない力量だし、意欲的な社会派映画だとはわかる。でも結果としてこの映画は「何にもなし」。人はどうにもならない社会の矛盾の中で生きている。体制崩壊は足元の地割れだったけれど、人間性やアイデンティティの喪失とイコールじゃない。連続殺人事件は本作じゃ重要な意味を持たない、付け足しみたいなものよ。それならそれで、何故主人公は犯人逮捕に情熱を注いだのか。警察に任せておけばいいものを。彼には何か「俺は一生懸命頑張っているぞ、これこの通り」という自意識で自分の承認要求を満たしたかったのね。試合には負けた、でも頑張ったのだからいいだろ、という代替満足に似ている。それでいいのよ。どこかで折り合いをつけ、思うに任せなかった現実をまあ、まあ、これでよかったじゃない、と自分でなだめ、なだめ、生きていくのは、立ち直る大事なコツかもしれないのだから。救われないのは女の虚しさよ。たとえ裏切りでも火花の一瞬でもあればまだましだった。初めから男には女に対する情熱も愛も「何にもなし」だったのだから。ラストは「記録的な寒波襲来」で、主人公の乗ったバスはエンコして動きそうもない。本作は終始、無情の雨が降り無情の雪で終わる。どこまで冷え込んだ映画なの。

 

あなたにオススメ