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特集「クロード・シャブロルの時間」

2019年12月3日

特集「クロード・シャブロルの時間」③ 
沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇(1996年 サスペンス映画)

監督 クロード・シャブロル

出演 イザベル・ユペール/サンドリーヌ・ボネール

シネマ365日 No.3046

どうしようもない女 

特集「クロード・シャブロルの時間」

 女二人が意気投合して雇用主一家をライフルで皆殺しにします。ソフィ(サンドリーヌ・ボネール)は家政婦としてルリエーブル家に雇われます。無口で仕事は几帳面、紹介書に不備はなく、料理は上手。奥様は気に入る。ただ書斎にだけは入りたがらない。彼女は失語症で文字が読めないことをひた隠しにしていた。郵便局に勤めるジャンヌ(イザベル・ユペール)と友だちになる。ジャンヌは悪い風評があり、雇い主のジョルジュは嫌っていた。「小包を開けた形跡がある。封筒も破れていた。盗み読みしたに違いない」でも証拠がない。娘を虐待し死なせた容疑で逮捕されたものの、証拠不十分で釈放された前歴がある。下品で図々しく、ブルジョワを毛嫌いし、動物的カンで彼らの偽善を見抜く▼ジャンヌはソフィの部屋に来て遊ぶようになり、ジョルジュの怒りを買う。ソフィは長女のメリンダに失語症だと見破られる。メリンダは「パパに言って治してもらうわ。お金の心配はしなくていいわ」やさしくいうが、ソフィにとっては「治す、治さない」の問題ではなく、生まれながらの落伍者の烙印を背中に押されているのと同じなのだ。ジャンヌと二人で一家が揃ってモーツアルトを聴いている居間に押し入り、猟銃をぶっ放して惨殺する。悩む様子も考える素振りも皆無。悪とはかように日常的で平凡な生じ方をするのだ。生まれるという言い方はおかしいかもしれないが、もともと内在していたコンプレックスや悪意が、ひょいと顔を出す。シャブロルの名人芸はここにある。日常から非日常の裂け目に滑りこむ音もない狂気の捉え方にある。一人は家政婦で一人は郵便局員。暇な田舎の郵便局で、ジャンヌは暇を持て余し「いやというほど本が読める」。ソフィにも犯罪の影がある。介護していた父親が放火で焼死した。ソフィは外出中だった。犯人は見つからず。「あんたがやったのね」というジャンヌに「証拠はないわ」と返答するのだから、どっちも犯罪とお友達だ。彼女らから見ればルリエーブル一家など「悩みは車の色を何にするか」くらい。メリンダは妊娠して慌てているが、ジャンヌの半生からすれば笑止である。ジャンヌは「妊娠して男に逃げられ、中絶を進めてくれる人もなかった。産みたかったからいいけど。子供を殺したって言われたけど、そのつもりならもっと前にやっていた。泣かない、いい子だった。空腹でも騒がなかった。あと二日で4歳の誕生日だった」。品の悪い女かもしれないが正直で、憎めない。ソフィにしても「字が読めない」のは苦労とか障害というレベルではなく、モラルに反しても隠したい黒い恥辱なのだ。足元に口を開けた裂け目をやり過ごしてしまえば、貧しいが平凡な人生であったはずだ▼しかしながら、生まれついたどうしようもないものを持って、人は生きるしか、ないらしい。同情も批判も、理解も無理解も通用しないところにこの映画はゴロンと横たわっている。ジャンヌとソフィが、くだらないテレビを、仲良く肩を組んでみている。鉄仮面のようなサンドリーヌ・ボネールと、毒蛇のようなイザベル・ユペールが、邪気のない悪意が人にはあるのだと確信させるのに充分だった。

 

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