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特集「令和の新春ベストコレクション」

2020年1月3日

特集「令和の新春ベストコレクション」③ 
見えない太陽(上)(2019年劇場未公開)

監督 アンドレ・テシネ

出演 カトリーヌ・ドヌーブ

シネマ365日 No.3076

アイスを食べ、人を殺す

特集「令和の新春ベストコレクション」

 2015年、フランスの春分「春の一日目」から「五日目」の五日間の出来事です。フランスとスペインの国境近くの農場で牧場を営むミュリエル(カトリーヌ・ドヌーブ)の元に孫のアレックスが帰る。祖母とろくに話もせず始終イライラ「電波が届かない」と焦っている。彼の母はダイビングの事故で死亡、父は再婚しカナダにいる。孫がカナダで働くというから「父さんのところにも行けば」とミュリエルは勧めるが「あんなやつ父親じゃない」とにべもない返事。畑で礼拝している孫を見て祖母はイスラム教徒になったことを知る。「8月に入信した。リラのおかげだ」。リラとは近隣に住む幼馴染。ミニュエルも娘のように可愛がっている。「来世のことを考えるようになった。口出ししないでくれ」「干渉しないわ」「当然だ」と攻撃的な口調だ▼リラは老人養護施設で働く。男性入所者の清拭を拒む。ミュリエルが孫とリラと三人、レストランで食事している。リラに「どこで信仰と出会ったの? モスクには?」と訊くと「やめろ。別の話をしろ」。ミュリエルは引っ込まない。「自分の孫と昔から知っている子がイスラム教徒になったのよ。質問して当然だわ。なぜモスクに行かないの?」「ネットになんでもあるから」「なんでもネット?」「自分たちの属している社会の腐敗ぶりを知るの」「腐敗?」「物質主義が理想を破壊している。老人の現状を見れば失敗は明らかよ」。彼女は近所に住む高齢男性の家に同居中だ。「私は老人で同居人が必要だ。だから君と契約した。ところが君は毎日留守で家ではパソコンばかり。私は放ったらかし。約束が違う。バカにするな」「他の同居人を探して」さっさと出て行く。社会の腐敗を正すより先に、自分の約束事を履行すべきでは? 祖母に対する孫の汚い言葉遣いといい、リラの排他的かつタカビーな態度といい、好感度ゼロであります▼アレックスが祖母の農場に立ち寄ったのは、フランスにいる最後の時間を祖母と過ごす、それもあるが、主たる計画はバルセロナからシリアに飛びテロ組織と合流することだ。映画の前半はとにかく金の話ばかり。テロ資金の金策に焦るアレックスは、ネットで知り合った勧誘員ビラルの矢の催促を受け、祖母の小切手を盗みサインを偽造する。リラは「盗みは教義に背く」と最初こそ反対したが「ミュリエルは無宗教よね、だったら盗んでも罪に当たらない」として、6000ユーロを銀行から引き出す。都合よすぎるじゃない? 初対面のビラルを、自分の将来を預けるほど信頼する? 彼らの行動を見ていて自然に生じる素朴な疑問をそのままにして、アンドレ・テシネ監督はさっさとストーリーを進める。ミュリエルは農場を経営する地元の友だち、ユーノスがファドというシリア帰りの青年を雇わなかった理由を訊いた。「テロリストの可能性があるからだ」。ミュルエルはファドと会うことにした。「シリアで10日間戦いフランスに戻りました。3年間服役し保護観察中です。僕は現地を知っている。行ったらきっと二度と戻りません」。ミュリエルはアレックスを厩舎に閉じ込める。「開けやがれ!」孫は喚く。リサには「アレックスは追い出したわ。銀行のお金を盗んだ。警察に届けるわ」。それをビラルに告げると「逃げたのさ。裏切ったのだ。あいつは変わり者だ。一緒に寝ていたら俺の服を撫でた。睡眠時無呼吸だって」軽くいう。そもそも深い相互理解はないらしい。今やミュリエルが信頼できるのはファドだけだ。「アレックスはとても閉鎖的な子なの」「僕もいい子だった。でも不満だった。友だちとゲームして、マンガを読み、ラップを聴く。フランスは退屈だった。それだけです」「そして人を殺すため戦場へ?」「分析医は、問題は僕の弱さだと。弱さを克服するため運動した。向こうではモテモテで、SNSには“いいね”がたくさん。毎日結婚を申し込まれました。アイスを食べ、人を殺す。サマーキャンプ気分でした」。戦場と人殺しと、平凡で変哲もない穏やかな日常が並列で進む。ミュリエルは背筋に冷たいものを覚える。

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