女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「令和の新春ベストコレクション」

2020年1月4日

特集「令和の新春ベストコレクション」④ 
見えない太陽(下)(2019年劇場未公開)

監督 アンドレ・テシネ

出演 カトリーヌ・ドヌーブ

シネマ365日 No.3077

パンドラの匣の最後

特集「令和の新春ベストコレクション」

 アレックスの書き置きがあった。「バアちゃん。これまでありがとう。感謝している。一生忘れない。俺は夜と決別して光へ進む。金のことごめん」。「お孫さんは戦争を始めましたね」とファド。「書き置きがあったわ」「全員書くのです。ネットに見本が載っている」「あなたがシリアに行った理由は?」「人生を変えたかった」。医学試験に落ちたアレックスは、どんよりした心の隙を勧誘員と教団支持者のリサにつけこまれたのだろう。毎日農場で働き牧場で馬の世話をし、牧草を刈り取り、子供乗馬教室を開いて堅実に生活してきたミュリエルは、来世を考える前に、この世で力いっぱい生きることを考えるべきだと思わずにいられない。「春の日」の五日目。アレックスは出発した。結婚の証人をネットで頼み、リサとは夫婦となった。ミュリエルの目の前の草原で少年たちがサッカーをしている。アレックスにもあんな日があった。砂浜に座り、ミュリエルは穏やかに寄せる白い波を見ている▼国境直前でバスは国境警察の手入れにあった。アレックスとリサとビラルを連行したという連絡をミュリエルは受けた。彼女が通報したのだ。「この後治安総局が尋問します。シリアでISと合流し組織に入る気だったら犯罪行為です。女はネット上でテロを支持。男は勧誘員で警察から目をつけられていました」。孫を引き止めたくて通報しただけなのに、犯罪者にしてしまった。一ヵ月後、ミュリエルは神経を病み入院していた。隣家のユーノスが見舞いに来た。ドライブに連れ出し農場に来る。ファドが働いていた。足首に装着していた発信器がない。「あなたのおかげです。あなたの陳述を判事が読んでくれた。僕は自由になりました。お孫さんは?」「審理の日程待ちだ」とユーノスが代わりに答える。「面会に行くといい」「拒否されるわ」。ミュリエルは孫が刑務所にいるのは自分の失策だったと思っている。どこまで女は自分を責めるのだろう▼ファドが「手紙を書いてみるといい」。能面のようだったミュリエルの表情がかすかに動いた。「あなたの言う通りよ。手紙を書いてみる」。そこで映画は終わる。静かすぎて何が言いたいのか、例によってテシネの作品に声高な主張はない。大学受験に失敗した孫が生き方に行き暮れイスラムに入信し、やりがいのある人生の目的を求めてテロ組織に入った。ミュリエルにしたら絶望だ。話せばわかるとか、家族の幸福とか、社会で生きて行く最低限度の譲り合いとか、守りあいとか、通用しない世界があった。せめて手紙を書こう。ひょっとしたらパンドラの匣の最後に「希望」は残っているかもしれないのだ。見えないけれど太陽はあるのだ。やつれきって目のふちが茶色になったドヌーブは、やや極端なメークでしたが、頑張ったのはよくわかる。彼女は軽い脳梗塞で倒れたとニュースにあった。「真実」の撮了・公開・カンヌ、来日と立て続けのスケジュールによる過労とか。仕事好きもほどほどにせねば。いくつになっても彼女が現れるとスクリーンが明るくなる。重しが利く。シワもシミも太っていることさえエレガントだ。どっしりしたキャリアの充実度。花も実もある女優です。お大事に。

あなたにオススメ